【書評】最強の読書ガイド『学問のしくみ事典』

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世の中にはいろいろな分野に膨大な本が存在しますが、「学問」というものすごく広い括りで書かれた本は初めて見ました。哲学や物理学など、それぞれの学問の成り立ちを代表的な研究者たちとその系統を整理して解説しています。その範囲はなんと、人文科学、社会科学、自然科学、文化芸術までカバーしています。

文系と理系という分類の無意味さ

必見は冒頭に2ページの見開きで書かれた「学問の成り立ち」という系統図です。ギリシア哲学から中世の神学、そして近代哲学に繋がる流れを軸になっています。その軸から、ギリシアの自然哲学から物理や化学や生物学などの自然科学が発展していきます。一方で神学から法学や政治学が分岐していきます。この図を眺めていると、日本の学校で、文系と理系という分類をして学生に進路を選ばせていることがバカバカしく思えてきます。

「科学」という言葉を聞くと、なんとなく理系科目を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。でも学問の分類には本来、人文科学や自然科学というようにどれも「科学」という言葉がつきます。自然現象、人間、社会など、学問の対象が違っているだけで、全て科学なんです。この本はそれぞれの学問の歴史的な系統が書かれていますが、それぞれの源流をたどると、そこには人文科学と自然科学にまたがってギリシアの自然哲学が登場します。

読み進めていくうちに、自分の中の文系、理系という概念がどんどん壊れていきます。そして学問全体の系統図が頭にできあがっていくのを実感できます。

これは最強の読書ガイドかもしれない

本書は本好きにとっての最強の読書ガイドではないかと思っています。といっても、決して多くの良書が紹介されているガイド本の類ではありません。では何でそう思うかというと、この本が自分の興味の幅を本の全ジャンルに広げてくれることです。ジャンルの範囲を「学問」と「文化芸術」全体に広げると、本屋にある本の大半はその中におさまってしまいます。小説だって文学の一部だし、ビジネス本も経営学や経済学にくくれるでしょう。映画や漫画や音楽だって芸術の中に含まれます。

本書を読めばその膨大なジャンルの本たちが、自分の頭の中で系統図になって整理されてきます。そうすると、自分が今まで読んできた本がどの分野に偏っているかがなんとなく見えてきます。さらに、その好きなジャンルと関連があったり、基礎知識になりそうな別の分野が何かがわかるようになってきます。その結果、自分が今まであまり読まなかった本に対する興味が一気に広がっていくのです。

例えば理系の勉強をしてきた人が物理の歴史を見てみたとします。すると、その科学的な考え方が成立するまでには、アリストテレスなどのギリシアの自然哲学者や、ベーコンやデカルトといった哲学の認識論の研究者が登場してきます。そうなると、今まで全く自分に関係がない、興味がないと思っていた哲学が、基礎教養として勉強したい分野として一気に浮上してきます。

内容は理解できないけど、それで良い

視点はすごく良い本なのですが、難点があります。それぞれの学問についての解説文が、正直いって素人に理解できる内容になっていません。学問の入門書のはずなのに、まず専門用語が分かってないと読めない文章になってしまってます。かなり矛盾した本ですね。でも、それで良いんじゃないかと思います。哲学みたいな壮大な学問の成り立ちを数ベージで説明するのはそもそも無理があります。むしろ、読んで分からないからこそ、その分野の入門書を読みたい!という欲求が湧いてくる部分もあると思っています。

この本はさらっと流し読みして、興味を持った分野の読書の海に早々に船出していきましょう。そのきっかけを与えてくれるだけで、この本にはすごい価値があると思います。

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