本書はトップクラスの人工知能研究者によって書かれた人工知能の入門書です。AI研究の歴史から、最近のブレークスルーであるディープラーニング、そして今後の展望までを平易な文章で教えてくれます。そんなに分厚い本ではありませんが、その情報量はすごいです。
人工知能の定義はあいまい
そもそも人工知能とかAIって何なのか?という定義を知らなかったので、それが分かるという期待を持って読み始めました。しかし結局この本を読んだ後も分からないままでした・・。それにも理由があって、コンピュータでできることのレベルが年を追うごとにどんどん高度になる中で、一体何ができればAIと言えるのか、という世間のなんとなくの共通認識が時代によって変化しているからです。
1960〜70年代の第一次AIブームでは、迷路やパズル、チェスや将棋といったある程度単純な問題にコンピュータが取り組めるようになりました。膨大な場合分けをしてその結果を評価するのですが、それをコンピュータの高速な演算能力で実現していきました。ただ速いというだけでやっていることは単純なのですが、一見すると人間のように考えているように見える。当時はそれがAIというイメージだったようです。
1980〜90年代の第二次AIブームは、コンピュータに人間の「知識」を教え込むことでAIの性能が向上しました。まずエキスパートシステムと言って、専門家の知識をベースに答えを推測するものです。例えば医療の世界で、患者の質問の答えから処方する薬を判断するシステムなどです。しかしその知識をプログラム上で正しく表現するのが難しかったのです。複数の概念があった時にそれらがイコールなのか、どちらかの一部なのか、どちらかの性質を表しているのか、と言った構造を表現するのが困難を極めました。そういった知識の記述方法の分野をオントロジー研究というそうです。その成果の一つがIBMのワトソンというAIで、クイズ番組で人間のチャンピオンに勝利しました。しかし、それらのAIにとって知識は記号の羅列でしかなく、その記号の概念を理解することはできません。概念の記述は、結局は人間の頭にまかされていました。それが第二次AIブームの限界でした。
その後の冬の時代を経て世界が大きく変わったのが、2010年代から今も続く第三次AIブームです。今や未来のビジネスを語る際に、AIという単語を聞かないことはありません。その状況は、機械学習とディープラーニングというブレークスルーによって生まれました。
ディープラーニングでコンピュータが概念を生み出す
本書ではディープラーニングについて、かなり分かりやすくコンセプトが説明されています。まず入力するデータ群に重み係数をかけて足し合わせ、隠れ層という変数を作ります。それにさらに重みをかけて足し合わせ、出力を得ます。その出力が元々の入力に等しくなるように、重み付けの値を調整していきます。その作業が「機械学習」の部分です。ここで出てくる隠れ層が、コンピュータが生み出す「概念」なのです。例えば画像認識の場合だと、膨大な画像データを学習させ、ピクセルの位置と色の入力データから、ピクセルの並びのパターンを概念化します。それが単純な図形だったり、目や口、人間の顔だったりするわけですが、抽出されるのはあくまでそのパターンだけで、それに後から人間が名前をつけてあげるのです。
ここで出てくる隠れ層を今度は入力にしてあげて、さらに機械学習をして新たな隠れ層を作ります。それを何段も何弾も「ディープ」に重ねていくのがディープラーニングです。一番下の階層は画像データなどの入力で、そこから上の層になるに連れて、図形、目や鼻や口、人間の顔、という風にどんどん大きな概念にまとめられていくイメージです。
人工知能と人間の未来
本書では、職業代替やシンギュラリティなど、人工知能がどこまで進化し得るのかと、その結果人間社会にどういう影響を与えるのかという予測も語られています。そこで気になるのが、映画やアニメに出てくるアンドロイドのように、AIが人間をそっくり再現できるようになるのか?ということです。本書の内容からして、おそらく遠い未来には可能なのではないでしょうか。そのためには、ディープラーニングに使う入力データを人間に近づけることが必要になるようです。人間には画像、音、触感、匂い、音の五感が備わっています。しかも、それらを時間軸に沿って組み合わせて感じとっています。さらに、人間には長い進化の過程で、生存に有利な仕組みとしての「感情」も備わっています。これら人間の持つ膨大な情報をデータ化してディープラーニングを繰り返せば、いつかは人間と区別がつかないAIができるかもしれませんね。そんなデータを取得するために、いつか人間の脳にセンサーを取り付けてビッグデータを取るような時代がくるのかもしれません。まさにSFの世界です。
世界を変えるポイント
巷ではAI、AIと騒がれていますが、何となくのイメージだけで実態が分からないという人がほとんどではないでしょうか。この本を読めば、AIとは一体何者で、現状何ができて何ができないのか、そして未来にはどんなことができるようになりそうか、といった基本的なことを大まかにつかむことができます。もちろん、さらに詳細で正確な専門知識を得るためには別の本を読む必要がありますが、普段目にするニュースや自分の仕事の未来など、世界を見る目を変えてくれるには十分すぎる内容が詰め込まれています。
コメント