古代ギリシアの哲学者プラトンの初期対話篇の中でも有名な作品です。プラトンの師ソクラテスが不敬神と若者を堕落させた罪で裁判にかけられた際の、ソクラテス自身の弁明演説の記憶をベースにして、おそらくプラトンの創作も加えて書かれた作品です。ソクラテスは政治家や詩人、職人といった自称知識人たちに対して問答を仕掛けて彼らの知識について吟味していき、彼らが本当は何も本質的なことは知っていない、ということを明らかにする活動をしてました。ソクラテスの有名な「無知の知」というフレーズのもとになっています。当然多くの人から恨みを買うことになり、最終的には半ば復讐としての訴追を受け、死刑を求刑されてしまうのです。弁明演説が進むにつれて、なぜソクラテスがそんな活動を続けてきたのか、その哲学的な理由が明らかになっていきます。
基本情報
作者:プラトン(古代ギリシアの哲学者)
成立年:紀元前390年頃
本釈者:納富信留
発行日:2012/9/12
ページ数:216
ジャンル:NDC 131, 哲学>西洋哲学>古代哲学
読みやすさ
難易度:光文社古典新訳文庫で読みましたが、訳文は現代の日本語で書かれていてとても読みやすいです。内容も、本書の半分をしめる解説によって背景からよく理解できます。
事前知識:古代ギリシャの歴史を知っていた方が良いですが、解説で背景となる歴史も簡単に書かれているので知らなくても問題ありません
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目次とポイント
第一部 告発への弁明:不敬神と若者を堕落させたという罪状に対して、弁論術的なテクニックも使いつつ論破するソクラテス。真実は、アポロン神から「ソクラテスより知識がある人はいない」という信託を受けたが、知識がないと自覚している彼は、それを確かめるために知識人たちに問答を仕掛けて回ったということ。その結果、彼らに知識がないことが分かったが、加えて彼らはそのことに無自覚であることも分かった。一方でソクラテスは自分が無知であることは少なくとも自覚している。そのことを啓蒙していくことが目的であり、その結果として人々の恨みを買った。
第二部 刑罰の提案:対案として追放を提案することもできたが、ソクラテスはそれは神託に背くことだと言って退ける。
第三部 判決後のコメント:感情に訴えて懇願するようなことは明らかに悪いことだと分かっているが、死ぬことは少なくとも良いか悪いか分からない。だから死を選ぶ。
感想
ソクラテスのやっていたことを聞くと、そりゃあ恨みを買って死刑になっても仕方がないな、と思えます。知識ぶっている人が、みんなの前で無知をあげつらわれるようなことをされるのですから。そんなことはやめておいて、もっと上手く生きたら良いのにと思います。でも、そんな自分も含めた読者の思いもソクラテスが弁明の中で否定していきます。もっと裕福になりたいとか、名声を得たいといったことよりも、知を愛し、物質的なことよりも自分の「魂」に配慮して生きる方が善いことであると。そんなソクラテスの言葉を聞いて、自分の中に矛盾した思いが交錯してしまいます。言っていることは正しいし、みんながそういう生き方ができれば良いというのは理屈の上では理解できます。一方で、そんな融通の効かないソクラテスの生き方を見て、イライラしてしまう自分もいます。現実にこんな人がいたら面倒くさそうで絶対に近付かないです。ソクラテス並に生き方を徹底できるような精神を持つのは、とても難しいです。その難しさについて、何も現実的な対応策を提示しないことに対するイライラかもしれません。
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