【書評】存在としての存在の研究『形而上学』アリストテレス

哲学

言わずと知れた古代ギリシアの大哲学者アリストテレスの代表作です。彼の研究は広範囲におよんでいて、物理学、心理学、生物学、倫理学、政治学、論理学、などなど、あらゆる学問を追求した恐ろしい程の天才です。その中でも、本書のテーマ「形而上学」は、存在を存在そのものとして研究する彼曰く「第一の哲学」という最上位を占めるものです。実体とは何なのか。感覚的に認識されるものか?それとも「数」のような抽象的なものなのか?。彼より前の哲学者たち、特にプラトンのイデア論やピタゴラス学派の「数」を実体とする立場を痛烈に批判しながらアリストテレスの精密な議論が展開していきます。

感想

正直言って、難しくて内容は半分も理解できませんでした。まず出てくる哲学用語のニュアンスを掴むのが難しい。そもそも多義的な古代ギリシャ語の単語が、さらに日本語に訳されているので複雑です。訳者が同じ単語をその時のニュアンスに応じて違った日本語に変換してくれていて、かつ訳註にその意図が解説されています。それでもやはり難しい・・。本書を完全に理解しようとするならば、一語一句丁寧にその言葉の定義と論理展開をじっくりと追っていく「熟読」の姿勢が必要でしょう。

さらに、本書はアリストテレス本人が構成したものではなく、彼の講義メモなどの断片を後世の人々が一つの著作としてまとめ上げたものです。そのため読者が順序立てて論理を追っていけるようなきれいな構成になっていないのも厄介です。本文を読む前に、一度巻末の訳者解説を読んで大枠の流れを理解してから読み始めた方が良いかもしれません。

それでも、質料と形相、四原因説、イデア論批判などの、哲学の入門書によく出る内容は面白く読むことができました。一般向け入門書にはよく、「木や鉄などの材料が質料で、椅子や家などの形状が形相」というようなシンプルな説明が書かれています。一方で本書を実際に読めば、可能態から現実態への転化であったり、動物の形相は霊魂であるいった、もっと複雑で深い意味のある言葉だということがわかります。

アリストテレスは「形而上学」の中で存在や実体について何か結論めいたことを書いているわけではなさそうです。解説にもありますが、実体がどんなものであるべきか、どんなものではないのか、とういったことを述べてはいますが、肝心の「何が実体なのか」についての明確な答えはありません。本書の内容はあくまで長い哲学の歴史の基礎であり、それを受けた後世の哲学者たちがその先にどう発展させていったのか、それを知るための長い長い読書の旅に出なければなりません。

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