飛行機の「技術」と、それを生み出した技術者たちの歴史
飛行機の歴史はライト兄弟から始まったというイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。かく言う私もこの本を読むまではそう思っていました。でもそれは大間違いで、ライト兄弟が実際に飛行機を飛ばすまでには100年以上におよぶ先人たちの試行錯誤の歴史があったのです。多くの技術者たちが数々のアイディアを出し、実験を繰り返してきました。その技術の集大成として、初めて飛行機を飛ばすことに成功したのがライト兄弟なのです。
本書のテーマは、「飛行機」の歴史ではなく「飛行機技術」の歴史です。飛行機を構成する「技術」ひとつひとつにフォーカスしてその歴史を解説しています。有名な名作飛行機は、あくまでそれら技術の組み合わせの一例として紹介されるのです。そしてその技術を生み出すのは人です。この本の魅力は、その人間たちのひらめきや苦労についてもドラマティックに描いているところです。飛行機の黎明期から現代のステルス戦闘機に至るまでの歴史を網羅した大著ですが、技術者たちが知識を受け継いでいく人間ドラマとしてあっという間に読めてしまいます。
本書ではライトフライヤー以降の飛行機の変遷を大きく以下の4つの時代に分けています。それぞれの時代の代表的な飛行機が詳細に解説され、その周辺の名機に関してもいくつも紹介されています。
- ライトフライヤー
- 支柱とワイヤーを持つ複葉機の時代(代表例:ドゥペルデュサン SPAD XIII)
- 成熟したプロペラ推進飛行機の時代(代表例:ダグラス DC3)
- ジェット推進飛行機の時代(代表例:ボーイング 707)
イノベーションのためのヒント
傑作飛行機の開発ストーリーを見ていくと、そこにはイノベーションに関する大きなヒントが隠されている気がします。例えばライトフライヤーですが、著者によれば、それを構成するほとんどの要素は既存の技術で、ライト兄弟はそれを成熟させ実際の飛行機に適用させたのだと言います。決して全ての技術のアイディアを発明したわけではなく、先人たちの研究の成果を吸収し、煮詰めて、そこにいくつかの重要な自分たちの新しいアイディアを掛け合わせることで素晴らしいひとつの作品を作り上げたのです。
アイディアは無から生まれるわけではなく、既存のものの掛け合わせで生まれてくるものです。何か新しい工業製品やサービスを生み出そうとする際に、「自分の考えた革新的なアイディア」にこだわるのではなく、これまで多くの人が考えてきたアイディアや技術を広く勉強して組み合わせ、そこにほんの少し自分独自のアイディアを入れていく、という発想が重要なのではないでしょうか。そしてそれを形にするために労力をかけて細部を煮詰めていく執念。本書をよく読めば、どんな傑作飛行機でも、そういったプロセスで生み出されたものばかりだということが分かります。これって例えば、現代の大発明と言っても良いiPhoneにも同じことが言えると思います。多機能な携帯電話やタッチ操作といったそれぞれのアイディアはすでに存在していましたが、それをちゃんと機能する、使いやすい1つの製品として具現化したセンスと技術力がAppleのすごいところだったのではないでしょうか。
世界を変えるポイント
単純に飛行機を見る目が変わります。それほど飛行機に興味がなかったのですが、読後はシンプルにゼロ戦やP51などの戦闘機を見てかっこいい!と思えるようになりました。でもそれより大きいのは、飛行機の構造をみて、なぜそういう形をしているのか、という機能面での解釈がある程度できるようになることです。これってつまり、どんな飛行機を見てもその構造を見て楽しめるということです。例えば旅行で飛行機に乗った時、博物館で古い飛行機を見た時、映画などで飛行機が登場したとき。この本を読んだあとだと自分の目線がかなり変わっていることに気づきます。
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