人間は生まれながらにして善であると古代中国の思想家である孟子は説きましたが、本書の主張はまさに「性善説」です。面白いのは、その主張が哲学ではなく、社会学的な実証データと進化論によって科学的に示されていることです。人類は利他的な社会を作る遺伝子を持ち、それによって作られた人間社会からの自然選択で強化されてきたという、人類に対する希望が語られています。
基本情報
作者:ニコラス・クリスタキス(社会学者、生物学者、医師)
発行日:2020/9/17
ページ数:上 296、下 339
ジャンル:社会科学>社会学>社会ネットワーク、自然科学>生物学>進化論
読みやすさ
難易度:理解はできるが、かなり集中力が必要
事前知識:無くても読めるが、進化論についてある程度知っていた方が読みやすい
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目次とポイント
第1章 社会は私たちの「内」にある:人間社会には道徳的に善い社会を作る普遍的な特徴(社会性一式)があり、それは遺伝子に設計図として書かれている。
第2章 意図せざるコミュニティ:過去に難破等でできたコミュニティのうち、社会性一式を備えたものがより生き残った。
第3章 意図されたコミュニティ:計画的なユートピア建設の試みでも、社会性一式が成否を決める。
第4章 人工的なコミュニティ:社会実験、SFなどの人工的な社会や、統計的な社会の特徴の偏りなどが、全て社会に普遍的な性質があることを示している。
第5章 始まりは愛:一夫一妻、一夫多妻、など多様な婚姻制度が見られるが、夫婦の愛着と絆は共通のもの。
第6章 動物の惹き合う力:動物にも夫婦の絆がある。そこから進化した人間は、その絆を血縁関係の外に広げた。
第7章 動物の友情:動物にも友情のネットワークがあり、そこには社会性一式が見られる。
第8章 友か、敵か:内集団バイアスは他集団の嫌悪や敵対を生むが、それは次集団への利他性の進化に付随するものである。
第9章 社会性への一本道:動物も人間も社会ネットワークを作り社会学習によって文化を継承していく。その文化がまた選択圧となって遺伝子に影響を与えていく
第10章 遺伝子のリモートコントロール:遺伝子はその個体だけでは無く、社会や他者を含めた外部の環境のあり方も決定している。異なる遺伝子同士と環境が相互に影響しあっている。
第11章 遺伝子と文化:人間の遺伝子の利他性によって文化が作られ、その文化が選択圧となり遺伝子の利他性を高める。平和な社会に向けた正のフィードバックループになっている。
第12章 自然の法則と社会の法則:社会学の世界で批判されがちな、実証主義、還元主義、本質主義、決定論的な見方は進化論の観点で見直されるべき。それによって、人間社会が善い方向に進化していけるという希望が見えてくる。
感想
日々社会の問題点ばかりが耳に入ってくる中で、人間は善い社会を作れる遺伝子を持っている、と言い切る視点は今まで見たことがなく、すごく希望が持てる内容でした。
一方で、紛争や差別などの引き起こしている、内集団バイアスの副作用としての多集団への嫌悪をどう乗り越えるのか、という課題に対する解決策や展望が書かれていないところが引っかかります。また、医学や社会制度の進歩によって、人間が遺伝子の特徴によって自然選択されない時代になっている可能性があるため、文化との相互作用で人間がこれからもさらに善い方向に進化していくのか、については疑問が残りました。
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