映画『ボヘミアン・ラプソディ』のネタバレ感想です。最後に作品をより楽しむための参考図書も紹介します。
注)これはあくまで映画を見た感想で、実在のフレディ・マーキュリーその人の人生について語ったものではありません。
天才の輝きと儚さ
アーティストの中でも本物の天才が生み出す傑作の裏には、儚さや残酷さといった影の部分がつきまとうことがあります。それが一層作品、人物の輝きや美しさを際立たせます。いや、むしろその影があるからこそ光が存在しているような気さえしてきます。
この映画の中のフレディはとにかく退屈が嫌いです。強い衝動を持ち、常に変化と刺激を求めています。決して前作と同じことは繰り返しません。それこそが「ボヘミアン・ラプソディ」というスタジオ作品の最高傑作を生み出すことにもつながります。ロックなのにオペラ、目まぐるしい曲調の変化、意味不明だがインパクトのある歌詞、そして6分という長さ。天才の自由な感性が生み出した名曲です。
私生活でも恋人メアリーと結婚して、順風満帆な前半部分。しかしそこからだんだんと不穏な空気になっていきます。影に隠れていた天才の危うさがなんとなく見え隠れしてきます。名曲を生み出したフレディのその気性が、その後の彼のセクシャリティの解放と合わさることで物語は悪い方向に進んで行きます。
愛をとりもどせ
映画の前半、湧き上がる同性への恋愛感情を抑え込んでいたフレディ。それは愛するメアリーのためだったのでしょう。ライブツアーから帰り久々にメアリーと再会したフレディは、自分がバイセクシャルであることを告白します。しかし、無情にもメアリーから「いえ、あなたはゲイよ」とはっきりと拒絶されてしまいます。メアリーにとって「性」のない結婚生活は辛すぎるものだったのです。
それをきっかけに、フレディの情熱の向かう先は徐々に方向を変えていきます。夜な夜な男たちと遊び、パーティで乱痴気騒ぎに明け暮れる日々です。名曲を生み出した危ういエネルギーが、今度は彼の人生を迷走させていくのです。そしてついにクイーンというバンドの崩壊を招くことになります。
しかし、仲間たちが彼を闇の中から救い出してくれます。雨の中でメアリーから言われる「家族」という言葉で立ち直るきっかけをもらった彼は、バンドのメンバーに思いを告げ、ついに家族を取り戻します。しかし、取り戻した愛の美しさの裏には、やはり残酷さが横たわっているのです・・。エイズであることを仲間に告げた彼は、「同情してオレを退屈させるな」と言いライブエイドの舞台に向かって復活を遂げて行きます。
ライブエイドで最高のパフォーマンスを見せるフレディ。そこには愛を取り戻した彼の圧倒的なエネルギーと、そして同時に儚さがあります。それを見て泣かずにはいられませんでした。
英雄の帰還
この映画はまさに神話のようです。厳格な親の元を離れて旅立った主人公が、音楽の世界で仲間たちと戦い栄光を勝ち取り英雄となる。しかしその後、彼は愛を失い死の世界を彷徨うことになる。そこから復活した彼は、素晴らしいライブパフォーマンスという宝物を持って観客と家族の元へ帰還するのです。
参考文献
『千の顔をもつ英雄』ジョーゼフ・キャンベル
世界中の神話に共通して見られる構造について解説されています。ジョージ・ルーカス監督がスターウォーズの脚本を執筆するときに参考にしたと言われています。
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