海賊の記憶
ハバナの海沿いには4つの要塞があり、それはカリブ海からやってくる海賊から街を守るためのものでした。ディズニーランドにカリブの海賊という乗り物がありますが、海賊が街で略奪をし、女をさらい、最後は街に火をつける、そんな中を船で移動する大人向けのアトラクションです。これらの要塞は、そんな恐ろしすぎる海賊たちの記憶を今に伝えています。
その中の一つ、モロ要塞は16世紀に作られたハバナ湾の入り口を守る要塞です。当時イギリスやフランスの私掠船という海賊がキューバにあるスペイン人の街を襲っていました。私掠船とは国家から公認された海賊で、敵国の商船などを襲っても良いという免許を持っていました。有名なのはイギリスのフランシス・ドレイクで、スペイン船から物資を奪いまくったおかげでエリザベス女王から勲章までもらってます。海賊が合法だったのですから、無茶苦茶な時代ですね。
ところで前回紹介した古都トリニダーは高台の坂の途中にある街ですが、もともとは海沿いにあったそうです。しかし度重なる海賊の襲撃から逃れるために、高台に移動したという歴史があるとのこと。海賊、おそるべし。
サトウキビと奴隷
キューバの郊外を車で走ると、道の横には広大なサトウキビ畑が広がっています。今となってはのどかで良い雰囲気ですが、どうしても奴隷労働によるプランテーションの歴史が頭をよぎってしまいます。その残り香を感じることができる場所が、トリニダー郊外のロス・インヘニオス峡谷です。スペイン人が黒人奴隷を酷使して大儲けしたサトウキビプランテーションと製糖工場の跡地が谷の中に広がっています。19世紀にはキューバが世界一の生産量を誇ったそうです。
そこに当時の監視塔が残っており、登ることができます。周囲には奴隷制廃止後に廃業した工場の跡地が見えます。一面を見渡せる絶景なのですが、当時そこから農園主が黒人奴隷を監視していたのかと思うと、美しい景色にも一瞬悲哀の影が差します。
革命の英雄たち
そして何と言ってもハイライトはキューバ革命です。1959年当時のキューバは、米西戦争に勝利したアメリカの実質的な植民地となっていました。アメリカの財閥が砂糖、葉巻、ニッケルなどの産業を牛耳っていて、そのための輸送や電力などのインフラに至るまで全てアメリカ企業に支配されていました。キューバの民衆は低賃金の労働に従事していて、搾取と差別の対象だったのです。そんな中、平等な社会を作るために民族闘争に立ち上がったのがカストロやゲバラといった革命の英雄たちです。大国アメリカを後ろ盾とするバティスタ政権を打倒し、ついに真の独立を勝ち取りました。アメリカ人や一部のキューバ人富豪の財産を接収して国有化し、社会主義体制で平等な国家作りを目指します。
まず革命と言って最初にイメージされるのはチェ・ゲバラでしょう。写真にしろ銅像にしろ、とにかく何をしててもカッコいいです。大学時代の友達がよくゲバラTシャツを着ていたのを思い出します。日本ではあまり有名ではありませんが、ゲバラと一緒に戦ったシエンフエゴスという人もキューバではゲバラと人気を二分しているようです。
ハバナの革命博物館には、彼らがメキシコから革命のために上陸した時に乗った船、「グランマ号」の実物が保管されています。こんな小さな船で始まった戦いが歴史を変えるとは。この目で見るとテンション上がります。
そして真の英雄フィデル・カストロ。革命後に政治のトップとして長年国家を運営してきました。革命後、利権を奪われたアメリカはカストロ政権打倒を目指し動き出します。CIAによる暗殺未遂、傭兵によるヒロン湾侵攻事件。そして何と言っても経済封鎖です。キューバと交易した国もアメリカによる制裁の対象となるため、キューバは孤立し経済は低迷、綱渡りの状態となります。それら全てなんとか乗り切り、社会主義を維持したカストロは本当にすごい。でも残念ながら民衆からの人気はゲバラには及びばないようです。たとえアメリカのせいだったとしても、仕事がない民衆の不満は多少なりともカストロに向けられてしまうのです。
でも意外にも、ハバナの街で一番銅像が立っているのを見かけるのはホセ・マルティという人です。19世紀の独立戦争の英雄で、自由、教育、平等などの彼の思想を実現するためにカストロは革命を起こしました。今のキューバの政策は、マルティ主義に源流があるのです。現地のガイドさんが、キューバの歴史の中で最も尊敬するのはマルティだ、と言っていたのが印象的です。
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