【書評】ディズニー好きの必読書『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯』ボブ・トマス

芸術

作品やテーマパークが世界中で大人気のディズニーですが、その人気の高さの割には、創業者ウォルト・ディズニーがどういう人だったかを知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。本書はウォルトが生まれてから亡くなるまでの人生を詳細に描いた伝記の決定版です。その人生は浮き沈みの連続ですが、そんな中で彼はエンターテイメントの世界で数多くのものを開拓していきます。トーキーアニメ、長編アニメ、TV番組、テーマパーク、実写映画。ついにはフロリダのディズニーワールドにEPCOTという実験都市の計画まで立てますが、それが実現する前に残念ながらこの世を去ります。大げさではなく、ウォルトの人生そのものが、彼の作った作品以上の最高のエンターテイメントだと思います。

ウォルト・ディズニーの人生グラフ

本書を参考にウォルトの人生の浮き沈みをグラフにしてみました。アップダウンはあくまで私見です。1901年にアメリカの中西部に生まれた彼は、6歳の時にマーセリーンという田舎の鉄道駅のある町に引っ越します。その少年時代は彼にとって特別な時間として記憶され、触れ合った自然、動物、鉄道などは彼の作品や人生全体に大きく影響します。その後父親が病気になったのを機にシカゴに移り、彼の理想の少年時代は終わりを告げます。後年に作り上げたディズニーランドでは、そのマーセリーン時代の思い出を再現するという裏のテーマを垣間見ることができます。

アニメ制作を始めてからはまさに浮き沈みです。後にミッキーを生み出すアブ・アイワークスと始めた会社「ニューマンラフォグラム」はすぐに倒産。そのは後ロスに移って兄ロイとスタジオを作ります。そこでようやくウサギのオズワルドというキャラクターの人気が出てくるのですが、配給会社の陰謀でキャラの権利を奪われ、スタッフも引き抜かれる悲劇が起きます。でもそこでくじけず、ウサギの次はネズミだとばかりに、ウォルトが出したキャラのアイディアをもとにアイワークスがデザインして、あのミッキーマウスが誕生します。その後はカラーアニメに挑戦しアカデミー賞の短編アニメ部門を受賞、三匹のこぶたの歌が大ヒット、と順調に作品作りを進めます。そしてついに、莫大な投資に反対するロイを説得して、世界初の長編アニメ「白雪姫」を完成させるに至ります。ここが彼のアニメ作家としての絶頂期になるのです。

順調に見えたアニメ制作ですが、クオリティ最優先の制作スタイルのせいで資金繰りは常に厳しい状態でした。そこに第二次世界大戦が起きます。重要なマーケットだったヨーロッパ市場を失い財政難に陥ってしまします。「ピノキオ」と「ファンタジア」は高い芸術性に対して売り上げは伸びず、大赤字。さらには、家族だと思っていた従業員が賃上げを要求してストライキを起こし、ウォルトと対立します。スタジオをクリエーター達のユートピアのように考えていた彼は裏切られ、憔悴し、その後は以前ほどアニメ制作へ熱意を見せることがなくなっていきます。スタジオは軍に接収され、ディズニーのキャラが登場するプロパガンダ映画を制作して急場を凌ぎます。ここに来て、人生のどん底といった感じです。

その後半ばアニメからの逃避という形で、彼は庭に大好きな鉄道のミニチュアを作ります。800mの線路に、トンネルまであるという本格的なものです。アニメそっちのけで、スタジオの作業場に入り浸って鉄道車両作りに没頭していたようです。でもそれが、後にディズニーの大逆転となる「ディズニーランド」を生み出すきっかけになります。ウォルトは園内に鉄道が走るパークの構想を始めます。またまた反対するロイを強引に説得し、借金をしてパークの企画を推し進めていきます。資金集めと宣伝のために、まだ新しいメディアだったTVでの番組制作をする先見性も見せます。ディズニーランドは開園するや大人気となり、ここでようやくウォルトは経済的な成功を得ることになるのです。

その後は彼の最高傑作である「メリー・ポピンズ」がアカデミー賞で多部門を受賞し、実写映画でも頂点を極めます。そして、晩年は壮大な実験都市であるEPCOTの計画を立て始めます。

アニメはディズニーのほんの一部

ウォルト・ディズニーに対して「アニメ作家」というイメージを持っている人は多いと思います。でもアニメ制作は彼の残したもののほんの一部にすぎません。キャラクターグッズ、実写映画、TV、テーマパークと、彼は次々と新しいことに興味を持ち続け、開拓していきます。まさにエンターテイメントの巨人と言って良いでしょう。

その極め付けがディズニーワールドに建設を計画しながら、存命中ついに実現しなかった実験都市「EPCOT」です。理想のテーマパークでは飽き足らず、今度は理想の「都市」まで作ってしまおうというのです。従業員の住居や学校などの公共施設、輸送インフラ、商業施設などを、ウォルトが主導して都市計画を進めていました。計画途中でウォルトが亡くなってしまったため実現しませんでしたが、これが本当に作られていたら、彼の伝説に新たな1ページが刻まれていたことでしょう。

世界を変えるポイント

日々メディアに接して生活する中で、誰でも望む望まないに関わらず、ディズニー関連の作品やキャラクターに触れる機会は多いのではないでしょうか。本書を読めば、それまでなんとなく可愛いな、楽しいなとか、はたまたあまり好きじゃないな、と言って眺めていたディズニーのコンテンツの見方が一気に変わります。

例えばミッキーマウスが描いてあるグッズの影に、オズワルトを失った事件からくる著作権意識、アブ・アイワークスとウォルトの関係、などなどのディズニー歴史が見え隠れするようになります。ディズニーランドでは、それまで家族サービスで付き合わされていただけの人も、あちこちでウォルトの歩んだ人生とパークのデザインの繋がりが分かり見える世界が激変します。本書を読んで、東京ディズニーランドのアーケードを歩きましょう。マーセリーンの思い出を再現したカリフォルニアのメインストリートUSA、それが雨の多い日本でどのように改変されたかという歴史に思いをはせる楽しい時間が待っています。

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