このところDK社の社会科学系の図鑑シリーズにはまってるのですが、今回は経済学がテーマの一冊です。このシリーズおなじみですが、図鑑と言っても最新の経済学の理論を並べていくわけではありません。古代ギリシアから始まる経済学の歴史の中で提唱された理論と経済学者を、時系列で紹介していくスタイルです。
なぜ時系列構成なのか
なんとなく経済学というと、過去の歴史を経た結果として定説となっている最新の理論があるというイメージがありました。だから読む前は、古い理論も含めてトピックを時系列に並べる形式はどうなんだろう?という疑問がありました。ところが最後まで読んでみて、なるほど、と思うところがありました。経済学は理論が少しずつ、より正しいであろう姿に進化していく自然科学のような流れではなく、いろんな主張が並立していて、それが現実の経済の結果によって肯定されたり否定されたり、主流派になったり傍流になったりしているようです。だから古い理論も含めた歴史の流れを追うことにも意味があるし、読んでいて面白いんだと。
その理由は、経済という現象があまりに複雑だからです。経済活動の要素をどんどん分解していくと、人間一人一人の行動や、商品の流れなどに行き着きます。その膨大な取引がより集まって経済システムを構成しているので、シンプルで数学的なモデルで表現するのがとても難しいのだと思います。モデル化する際に、どうしてもいろいろな仮定が必要になってきます。例えば、人間は物を買う時に、その商品によって自分が得られる満足度を正しく予測していて、それに見合う価格になっているかを評価する。そのように「人間が合理的である」という仮定です。そういう仮定のもとで、需要と供給の均衡などのモデル化がなされます。でも、結局扱ってるのは人間という認知能力が限られている非合理的な存在です。だから現実世界は諸々の仮定を満たさず、社会の状況に応じてモデル通りの動きをしないということになるのです。
その結果、「ケインズ主義」や「自由主義」や「マネタリズム」といった主張によって立場が分かれ、どういう理論や経済政策が正しいのかという議論が歴史上繰り返されているのではないかと思います。さらに、よりミクロな視点で人間の心理学的な面に着目した「行動経済学」などの分野も発展してきているようです。
経済学を学ぶ前の土台作りにおすすめ
普通に経済学を学ぼうと思ったら、ミクロ経済学やマクロ経済学の教科書から読み始めるのが普通だと思います。私は大学でも経済学を学んでいないようなど素人で、たまたま趣味でこの本を読み始めたわけです。でも結果的に本書のような経済学の歴史の本から入ったのは正解だったと思っています。事前に歴史の流れをながめられたことで、経済学に対するイメージを書き換えられた気がします。数式でモデル化された経済システムの裏には、あくまで現実とは違った仮定がいくるもある。さらに実際の商品の取引の裏に、近年ますます複雑さを増す金融市場のシステムが存在する。そういう複雑で予測困難な要素が経済を形作っているんだというなんとなくのイメージです。現に、2008年のリーマンショックでは大勢の経済のプロたちが判断を誤っているわけですからね。
コメント