どうして世界各地で民族紛争が絶えないのか、その理由が知りたくてこの本を手に取りました。世界全体の民族分布とその歴史、そして結果としての現代(1997年時点)の民族問題について網羅したすごい本です。おおまかに世界の紛争の原因をしることができました。でもそれぞれの問題の根の深さに憂鬱な気持ちになってしまいました・・。
民族の分類
「民族」について明確な定義は存在していないようですが、重要な要素だと言えるのが「言語」と「宗教」です。言語の違いはお互いのコミュニケーションを難しくし、宗教の違いは世界の捉え方の違いを産みます。その結果、多民族に対して自分たちとは違う集団だという意識が生まれます。生物学的な人種については各地で長い間混血が進んでおり、細かい分類は難しいそうです。そう言えば古代ギリシアのオリンピックへの参加条件も、ギリシア語を話すこととギリシア神話の神々を信じていることでした。
民族紛争が起きる理由
現在は世界のほとんどが国民国家同士の国境線で明確に分けられています。しかし、民族は違います。日本という特殊な国にいるとなかなか実感できないですが、世界の多くの国では、言語や宗教が違う民族同士が、明確に居住地を分けることなくモザイク状に分布して暮らしています。国境線で土地を分けた瞬間に、そこには必ず民族の多数派と少数派という関係が生まれるのです。
それでもみんな仲良く暮らせば良いじゃないかと思いますが、そう簡単にはいきません。今の経済の仕組み上、人々の間には経済格差や利害対立が必ず発生します。その対立軸が、どうしても言語と宗教の違う民族の間に生まれてしまうのです。第三者の大国が、自国の利権のために民族感情を煽って利用したりもします。
民族紛争のパターン
この本で紹介されている紛争には大まかに3つのパターンに分けられると思いました。本来ここまで単純化できるものではないのでしょうが、あえて自分の中で捉えやすく分類してみました。
1. 自民族の国家から分断される
歴史の経緯で引かれた国境線によって、自民族が多数派となっているA国がありながらそこから切り離されれ、B国内で少数派となっているパターンです。その民族はおおむね政治的、経済的に弱者となっているようです。ですが一部には、逆に少数派が経済的に豊かであるために、相対的に貧しい国家に富を吸収されて不満を持つ場合もあります。紛争地帯には当然B国の多数派民族もある割合で暮らしているため、B国側としても、独立やA国への併合を決して認めるわけには行きません。どうしても紛争は泥沼化します。
極端な例が旧ユーゴスラヴィアからのクロアチアの独立です。ユーゴスラヴィアの政治を支配していたセルビア人に反発したクロアチア人が独立国家を作りますが、そのクロアチア内のクライナ地方では逆にセルビア人が多数派となっていました。その結果、クロアチアからの分離を目指すセルビア人とそれを阻止するクロアチア人の紛争が発生します。重層的で、どうどうめぐりの悲惨な状況ですね・・
2. 国家の中の少数民族
国家の中の少数民族が、ある地域内で多数派もしくは高い割合で分布しているパターンです。経済的弱者であることや、他民族の植民や同化政策によって民族文化消滅の危機感を持つことによって分離運動が起こります。
3. 国家に分断される
自民族が多数派の国を持たず、民族がいくつかの国家に分断されているパターンです。本書の中ではクルド人問題がこれにあたります。民族の分離運動が、それぞれの国の代理戦争に利用されていくのが悲惨です。
本書で紹介されている紛争について、分類してみました。単純化しすぎていたり認識違いがあるかもしれませんがご容赦ください。
世界を変えるポイント
民族紛争のニュースを見るたびに、どうして人間は争いあって平和に暮らせないんだろう・・と感情的になってしまいがちです。でも本書を読めば、そういった紛争が社会のシステムの中でどうして起こるのか、というメカニズムをなんとなく捉えることができるようになります。日本も今後移民が増えていくかもしれません。そうなった時に民族間の問題を考える軸を教えてもらえる本です。
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