【書評】あなたの中にいる二人の人物『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン

心理学

私たちは普段、限られた情報しかない不確実な条件下でどのように意思決定をしているのでしょうか。著者はそういう時の脳の機能の仕方には大きく2種類あると言います。エラーは大きいけど判断スピードが速く消費エネルギーも小さい「システム1」と、より合理的で正確だが判断に時間がかかり、脳が認知に使えるリソースを大きく消費する(脳が疲れる)「システム2」です。そのため、人間は普段できるだけシステム2をサボらせて、できるだけシステム1の判断で済まそうとするそうです。システム1が複雑な問題を何かに置き換えたり、簡略化したりすることを「ヒューリスティクス」と言うそうですが、それによって生じる生じる判断のエラーが「認知バイアス」です。そのバイアスによって、大事な判断をする時に間違いをおかしてしまいます。本書ではその様々なバイアスのパターンが紹介されています。TVでテロのニュースを見ればテロに遭う確率を過大に評価するし、定価の50%引き!なんて言われすと安く感じてしまう。そんな誰でも思い当たる節がある事例を見て「あるある」と思うだけで楽しめますが、本書を読めば仕事や人生の大事な判断に役立つこと間違いなしです。

基本情報

作者:ダニエル・カーネマン(認知心理学者)

発行日:2014/6/20

ページ数:上 448, 下 432

ジャンル:NDC 141, 哲学>心理学>認知心理学

読みやすさ

難易度:読みやすいです

事前知識:中学校の数学で習うレベルの確率の知識は必要です

おすすめ予習本:経済学の合理的な人間の仮定との対比が多いので

目次とポイント

第1部 二つのシステム:速い思考(システム1)と遅い思考(システム2)が共存しており、普段の判断は無意識のシステム1がほんとどをこなしている。

第2部 ヒューリスティクスとバイアス:システム1が様々なバイアスを生み出す。アンカー効果、利用可能性バイアス、代表性バイアス、平均への回帰

第3部 自信過剰:システム1がいったん妥当そうなストーリーを作り出すと、そのバイアスがかかった判断に対する自信が深まってしまう

第4部 選択:プロスペクト理論。利益と損失の効果は逓減する(変化の大きさに対して受け取る感覚が減っていく)。利益より損失の大きさを過剰に評価する。そのプラスマイナス0となる「参照点」は現状やアンカーによって変動する。

第5部 二つの自己:時系列で感じている快楽や苦痛の総和と、経験した後に記憶している感覚は一致しない。記憶は主に快楽や苦痛のピークと変化で決まる。

感想

認知バイアスについては他の本でも読んで何となく知ってはいたのですが、本書はその網羅性と解説の詳しさにおいて素晴らしいものがあります。でも一番新鮮だったのは最後の幸福についての章で、人間の幸福には2種類ある、というところです。その時に実際に感じている「経験する幸福」と、後で思い返した時の「記憶する幸福」です。この考え方、自分の人生観を考え直すきっかけになると言っても過言ではありませんでした。人生でどんなに辛いことがあっても、ちょっと良いことがあったり終わりかたが良かったりすると、その後の記憶では良い思い出になってしまうことが多々あります。そう考えると、果たしてそれは本当に幸せだと言えるのか?という難しい問題が発生します。著者は経験する幸福を重視する立場をとっていますが、私も同意見です。記憶する幸福を重視した場合、今起こっている辛いことを肯定することにもなりかねないからです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました