【映画】情熱と利益のバランス『フォードvsフェラーリ』ネタバレ感想

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映画『フォードvsフェラーリ』のネタバレ感想です。最後に作品をより楽しむための参考図書も紹介します。

ゲマインシャフトとゲゼルシャフト

この映画の後半は、レースに情熱を燃やすシェルビーとマイルズのコンビと、企業の宣伝を最優先に考える副社長のビーブとの対立を軸に話が進みます。会社の利益を追求するフォードのスーツ組の横やりに負けず、レースにかける男達がルマンでの勝利を目指す熱いストーリー展開です。これを見て思い出したのが、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトという単語です。

ドイツ語では、Gemeinschaft(ゲマインシャフト)は概ね「共同体」を意味し、Gesellschaft(ゲゼルシャフト)は概ね「社会」を意味する。テンニースが提唱したこのゲゼルシャフト(機能体組織、利益社会)とゲマインシャフト(共同体組織)とは対概念であり、原始的伝統的共同体社会(共同体組織)を離れて、近代国家会社・大都市のような利害関係に基づき機能面を重視して人為的に作られた利益社会(機能体組織)を近代社会の特徴であるとする。

共同体 – Wikipedia

ビーブを含めたフォードの上層部は純粋にゲゼルシャフトであり、会社の利益が何よりも優先されます。レース活動も、ブランドイメージ向上のための手段なのです。一方でシェルビーとマイルズの関係は、ルマンの優勝という目的で手を組んでいる面もありますが、よりゲマインシャフト的です。シェルビーはマイルズをルマンに連れて行く事にこだわったし、マイルズもシェルビーの立場を考えてチームオーダーに従うのです。ビーブは組織の目的のためには個人の犠牲を厭わない人ですが、シェルビー達はその逆です。

スーツ組は単なる敵なのか?

では、ゲゼルシャフト的なビーブ達スーツ組は単なる敵なのでしょうか?そもそも、シェルビーとマイルズがルマンでフェラーリに勝つことができた土台には、フォードのブランド構築という企業の利益追求にあります。ヘンリー・フォード2世がシェルビーに白紙の小切手を切り、優秀な人材とモノを与えたからこそ、彼らは勝つことができたのです。マイルズを減速させて3台並んでチェッカーフラグを受けさせたチームオーダーも、宣伝効果があったのは事実でしょう。今でもルマンの歴史が解説される際には、1966年のチェッカーの写真と共にフォードの伝説が語られます。

こうして考えると、ビーブの一連の行動は、フォードというゲゼルシャフトに属する者としてはとても理にかなったものです。フォードの宣伝という目的のためにレース活動を始めて、その目的の達成のために最も合理的な判断をしています。では逆に、もしレースチームが完全にゲゼルシャフト的な組織だったとしたら、フォードは勝てていたのでしょうか?

組織にはバランスが必要

一方で、フォードが勝てたのは、レースを戦うメンバーそれぞれの情熱あってこそです。病気で現役レーサーを引退してチーム運営の立場からルマンへの復活を目指すシェルビー、常に「完璧なラップ」を目指してドライビングを追求するマイルズ、その他のクルー含めて、会社の利益を求めて戦っている人はいないでしょう。しかし彼らの情熱がなければレース活動は成立しないのです。どんな組織でも、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトのバランスが必要です。利益追求に偏った組織も、個人の理想に偏った組織も、どちらも衰退する運命にあるでしょう。

これって、まさにこの作品を作っている映画業界の人が一番身にしみていることじゃないでしょうか。作品を作るためには莫大な費用が必要で、その予算を確保し、ヒットさせてその費用を回収するためには、作り手の理想の追求だけでは成立しないですよね。これは映画だけではなくて、製造業やサービス業といった多くの会社に当てはまると思います。良い商品を作るためには社員個人の理想や情熱が必要ですが、同時に自己満足に陥らずにたくさん売って利益を確保することも必要です。

映画を見ている人の多くも、そんな組織の中で情熱と利益の狭間で戦っているからこそ、シェルビーとマイルズの熱い戦いが胸に刺さるのかもしれません。

参考図書

『How Google Works(ハウ・グーグル・ワークス) 』

この情熱と利益のバランスについて画期的な考え方をしているのがGoogleです。まずはユーザーに価値を与えるシステムを考えて事業化するかを判断して、利益は後からついてくる、という考え方をしているそうです。

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