【書評】本当の多様性とは『ハーマンモデル』ネッド・ハーマン

心理学

著者ネッド・ハーマンが当時GEに勤めていたときに開発したのが「ハーマン・モデル」です。性格を「分類」する本はいくつかありますが、本書はそんな単純化された方法から一歩進んで、性格をいくつかの「パラメータ」の大小で表現するツールが紹介されています。

4つの脳の思考部位と脳優位

人間がある特定の思考をしている時にはそれに対応して脳の特定の部位の活動が活発になることが知られています。ハーマンは、過去の研究(スペリーの左脳・右脳理論、マクリーンの三位一体脳理論)を参考に、脳を4つの思考部分に分ける考え方を生み出しました。脳科学や心理学に基づいた厳密な理論ではなく、彼の経験に基づいてツールとして有用であることを重視して作られたようです。その4象限は、理性、組織、感覚、実験に分けられています。

「好きこそ物の上手なれ」という発想

この本のジャンルを言うなら、完全にビジネス実用書です。組織をどうマネージメントするか、どう働くか、何の職業を選ぶか、そういった実用的な目的のためのツールです。でもいろんなビジネス実用書を読んだ中でもこの本の素晴らしいところは、人間それぞれに脳の優位な部分があり、得意不得意があるんだという前提に立っていることです。

言われてみれば当たり前に聞こえますが、果たして私たちの職場にはそういった発想があるでしょうか。少なくとも私が勤める会社が従業員に求めているのは「全ての思考に優位であること」です。論理的に考え、しっかり計画を立て、高いコミュニケーション能力を発揮し、素早く判断して行動する。誰もがその全てを兼ね備えることを要求されています。部門で共通のコンピテンシーが明文化されており、その全ての項目で高い能力を示さないと昇進できません。何かが欠けていると、〇〇が出来ないやつ、という評価を受けることになります。

これ、今でも日本の多くの企業、特に古くからある大企業なんかは同じような考え方なんじゃないでしょうか?そして部署配属などの際に考慮されるのは主に「経験」です。その人が何の仕事に向いているかよりも、どんな学部を卒業したか、どんな部署で働いてきたか、どんなスキルを身につけてきたかでその人の仕事が決まることが多いのではないかと思います。

それに対してこの本の面白いところは、人それぞれ得意なものが違うのだから、各自の得意なことを任せれば良いと言っていることです。好きで熱中できることこそがその人の能力の一部なのです。あいつには不得意なものがあるから、もっとやらせて鍛えよう!という発想で、分析が好きな人に毎日他人との調整ごとをさせたり、計画が好きな人を火事場の最前線で戦わせたり、他人への共感力が武器の人にひたすら表計算ソフトでの資料作りをさせるのは間違っている。それよりも、違う優位性を持った人たちが集まってチームを組み、補い合う方が効率的だというのです。

性格はタイプ別に分類できない

そして最も重要なのは、エニアグラムのように性格をなんとかタイプというような型に当てはめるのではなく、4つのパラメータの大小で表現していることです。エニアグラムで感じるのは、「自分はあれとこれの二つとも当てはまるんだけどな」という違和感です。ハーマンモデルはその疑問に答えてくれます。パラメータの大小なので、当然2つ以上の象限に優位を持っていても良いのです。ある特定の思考スタイルに特化して優位な人もいれば、いくつか複数のスタイルで優位な人もいるのです。ハーマンモデルでは、様々な職業の人にテストをしてもらい、職業別の平均的なパラメータ分布を作成しています。エニアグラムではたった9つの性格ですが、ハーマンモデルでは各象限の掛け算で無数の分布が存在しています。

ひとつ面白いのが、社長など組織のリーダー格の人たちの分布が、見事に4象限ともにバランスよく優位だったというデータです。やはり、トップに立つ人だけは得意不得意なんて言っていられないということでしょうか。

本当の多様性とは

よくダイバーシティ経営と言って、性別や出身国、宗教の違う人を集めて相乗効果を得ようと言う話を聞きますが、果たしてそれが本当に「多様性」と言えるのでしょうか。個人的には、生まれた国や文化が違ったら発想変わっていろんなアイディアが生まれるなんて、本当かな?と思ってしまいます。どの国に行っても、意外と人間変わらないものだと思いますが・・。しかも同じ職場にいるってことは結局同じ国に集まって暮らしているわけですから。

それよりも、もっと身近にある「性格」の多様性を生かす方がメリットあるんじゃないでしょうか。好き嫌い、得意不得意が違った人が集まったチーム作りができれば、本当の意味での多様性を生かした働き方ができそうな気がします。

世界を変えるポイント

私の会社の同期が、部下の新人に対する不満を口にしていました。そのAさんは、多部署の人とのコミュニケーションが苦手で、誰々にあれを確認しておいて、とお願いしても1週間も放置してしまうそうです。どうしようもない新人が来た、と彼は嘆いていました。

Aさんはおそらく防衛的な性格で、「理性」と「組織」が優位ではないのではないか。そこで同期に「Aさんはひょっとして、細かい情報の分析とか、計画を立てたりするのは得意なんじゃないの?」と尋ねてみました。そうしたら、やはり1人で黙々と分析させたりすると、それなりにクオリティの高いアウトプットが出てくるそうです。

この本を読んでいなかったら、私にはそういう考えが浮かばなかったかもしれません。まず彼のそういった得意なことを極めるまで伸ばしてあげて、それで自信がつけば防衛本能も薄れて、自然とコミュ力もついてくるんじゃないか、そういう視点は本書を読んだからこそです。

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