【書評】健康の鍵は進化のミスマッチにある『人体600万年史』

人体600万年史 歴史

世の中の数多くの人が、健康に長生きできる方法が知りたくて日々情報集めをしています。食事法、エクササイズ、医学など、TV番組や本などをはじめ、巷には膨大な量の情報が溢れています。そもそもなんで現代人はこんなに不健康なんでしょうか。食べたいものを食べて、好きなように動いたり休んだりしているだけだと、なんで健康になれないのでしょうか。本書は、人類の祖先が生まれた600万年前から延々と続く人体の進化の歴史を紐解くことで、その理由を科学的に明らかにしてくれます。

600万年の人体の進化

人間を含む生物は、ものすごく長い時間をかけ、遺伝子の変異と淘汰による自然選択によって、生きている環境にうまく適応できるように身体を作り変えて来ました。いわゆる進化というやつです。では人間はどんな環境に適応してきたのでしょうか。二足歩行をする初期人類が誕生したのがおよそ600万年前です。そこからおよそ1万年前に農耕が始まるまで、人類は狩猟採集の生活をしていました。寒冷化で主食だった果実が減り、そして森林が減っていきました。人類は食料を変化させて適応していきます。歯を頑丈に発達させて植物の葉や茎や根を食べ、長距離移動の能力を上げて動物を狩り肉を食べます。さらに道具を使い始めたことで、それまで硬くて繊維質の食料を消化するのに使っていたエネルギーを脳に回すことができるようになり、どんどん脳が大きく賢くなっていきます。

私たちの直接の祖先であるホモ・サピエンスがおよそ30万年前に誕生して以降、人類に大きな変化が生じます。脳と口の構造が進化したことで「言語」を話せるようになるのです。言語によって複雑な思考ができるようになり、さらに大勢で協力して活動できるようになったホモ・サピエンスは、それまでの旧人類を駆逐して全世界に広がっていきます。

文化の進化に人体が適応できていない

その後気候が安定して温暖になると、人類はおよそ1万年前から、農耕と牧畜の開始という大転換期を迎えます。穀物を大量に栽培して人口が急増しますが、良いことばかりではありません。食料が穀物に偏ることでビタミン、ミネラルなどの栄養不足、少量品種の栽培による定期的な飢饉、家畜が原因の疫病の流行、農業を維持するための労働時間の増大などなど、様々な問題が人類にふりかかってきます。

そして18世紀の産業革命以降、人類の暮らす環境が加速度的に変化していきます。現代は、食料事情の改善、医療の進歩などの良い変化もありますが、一方で機械の進歩による身体活動量の減少、加工食品からの炭水化物や脂肪の摂取、などの問題が新たに生まれています。

それら人間の文化が生み出した環境の変化は速すぎました。600万年かけてゆっくり進化してきた人体は、たった1万年で新しい環境に適応するほど進化できないのです。しかも、飢餓の減少と医療の発達によって人類に対する自然選択の圧力は少なくなっているのです。本書ではそれを「ディスレボリューション」と呼んでいます。その環境と人体の適応のアンマッチが、糖尿病や心臓病といった現代人が悩まされる多くの「ミスマッチ病」の原因となっているのです。

結局は運動と食事が大事

この理屈で考えると、結局は「適度な運動とバランスの良い食事が大事」という当たり前すぎて拍子抜けする結論が導かれます。でもここで本当に面白いのは、その一般論として当たり前のことに、これほど明確なロジックで仕組みが説明されていることです。しかもこの当たり前のことをみんなが病気にかかる前から気をつけることで、多く人を病気から救うことができるのです。先端医療は、もうかかってしまった人のミスマッチ病を治療したり症状を緩和させたりすることはできますが、予防はできないのです。

しかしミスマッチ病の予防はをそれぞれの人が実践するのは実際難しいですよね。著者はそうした活動を、例えば政府が国民に強制してやらせるべきではないと主張します。判断力のない子供はともかく、大人には自分の体を好きなようにする基本的な権利があるからです。その代わり、特定の食べのもに対する課税や広告の規制など、ゆるやかな政策を提言しています。

世界を変えるポイント

世の中には、様々な主張や、色々な人が考案する〇〇健康法みたいなものが氾濫していて、結局どうするのが正解なの?という状態に陥ってしまいます。そんな時に、本書に書かれていることを念頭に置いて、「これを実践することで環境を人体の適応に合わせられるのか?」と考えることで強力なガイドラインを持つことができます。そうやって考えると、これを毎日食べていれば健康になれますとか、これを飲めば運動しなくても健康になれる、とかいった話を聞いたときの見方がいっきに変わります。そして、本当にやるべきことが見えてきます。

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