現在CO2排出による温暖化が人類の大きな課題であることが共通認識になりつつあります。その話題が出るたびに、18世紀の産業革命以降の気温の上昇を表すグラフが出てきます。では、何万年とか何十万年とかいったすごく長期的な視点で見ると、今はどういう時代で、今後どうなっていくんでしょうか。本書は、地層の中に眠る気候変動の証拠を探す長年の研究によって明らかになってきた、人類が生まれた時からの大きなスケールの気候変動について教えてくれます。その結果、気温が上がるか下がるかだけではなく、データが振動するような短期的な変動の大きさ、という新たな視点が浮かび上がってきます。
時間のスケールを変えて気候変動を見てみると
最近は地球温暖化に関するニュースが多く、気温が上がって南極の氷が溶けて・・といった話を聞くたびに未来が不安になります。そこで語られる時間のスケールは、せいぜい数百年くらいでです。その範囲で気温のグラフを眺めると、確かに産業革命以降に平均気温は急上昇しています。本書では、十年単位から億年単位までの様々なスケールでの気温の変化を示したグラフが出てきます。スケールを広げて数億年の範囲で見るとどうなるでしょうか。すると現在がかなり寒冷化した時代であることが分かります。恐竜がいた1億年なんかは、今より10℃以上気温が高かったそうです。そして現在の気温のグラフは右肩下がりです。「温暖化というけど、実は長い目でみると寒冷化してる」というのもたまに聞く話ですよね。さらに数十万年の範囲で見ると周期的に気温が上下していますが、今が温暖化のピークであるように見えます。長期的に見ると、やはりこれからは寒冷化のフェーズに入りそうに見えます。
未来のことはわからない
でも話はそんなにシンプルではなさそうです。個人的に一番怖いグラフ、それは数万年の範囲を示したものです。 問題は気温の安定性です。1万年前あたりから現在までは、奇跡的に気温の上下が少ない安定した時代だったのです。その気候が安定する時期が、ちょうど人類が農耕を始めた時期と重なります。気候が安定しないと少数品種の栽培は干ばつのリスクが大きいですが、それが安定したことで農耕のメリットが採集のメリットを上回ったのです。筆者はそこで「二重振り子」を例に出します。動画で見ると、なんとも面白いというか気持ち悪い動きです。
一定の振動ではなく、緩慢になったり急に激しくなったりして、人間の感覚では予測不可能な動きを見せています。振り子が2つでこれだから、地球規模の気候変動なんて予測できるはずがないですよね。これを同じように、今がたまたま安定している時期で、いつこの状態が終わって気候が急変動してもおかしくないのです。自分の生きている間に起きる可能性はかなり低いんでしょうけど、いつか必ず来るのです。背筋の凍る思いがします。
水月湖の年縞研究
この本のハイライトは、福井県の水月湖の底にある「年縞」を研究してきた筆者のドラマと、その結果から導かれた、農耕や狩猟採集についての考察です。このあたりは本当に面白い部分なので、ぜひ本書を手にとって読んでみて欲しいです。とてもロジカルで冷静な文章だけど、同時に研究に対する情熱も伝わってきて、引き込まれること間違いなしです。なんとなく恐ろしい内容の本ですが、最後に筆者が抱く人類への希望が語られます。決して悲観的な思い出書かれた本ではありません。
世界を変えるポイント
自分が生きている時代の地球温暖化の問題については、日々のニュースを聞く中でいやでも考えさせられます。でもこの本を読めば、その思考のスケールがいっきに広がります。人類の歴史、はては地球の歴史の中に今の時代を位置付けて、気候問題を考えるベースの知識が得られると思います。
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