近現代の社会思想は、”性悪説”で動いてきた。〜中略〜 また”性悪説”を裏付けるような心理学実験や人類学の調査がなされてきた。〜中略〜 だが、これらは本当か。著者は、”暗い人間観”を裏付ける定説の真偽を確かめるべく世界中を飛び回り、関係者に話を聞き、エビデンスを集めたところ意外な結果に辿り着く。なぜ人類は生き残れたのか。民主主義や資本主義や人間性の限界を踏まえ、いかに社会設計すべきか、どう生き延びてゆくべきかが書かれた「希望の書」。
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感想
世界の見方が180度変わる、そんな読書の醍醐味と言える経験をさせてくれる本に出会えました。ニュースに限らず、読書をする中でもそうなのですが、人間の性質については悲観的な見方が多いです。思えば自分自身もそういうのを求めているところもあって、人間は利己的で悪だと、そういう認識ってなんとなく物事を分かったような気にさせてくれます。
考えてみると、人間は生まれつき悪だという現実主義(本当は現実ではない)を主張するのは簡単ですが、その逆を主張するのは少々勇気が要ります。考えが甘いとか、そんなんじゃいつか騙されるとか、歴史を見てみろとか、いろいろな反論を受けるのが目に見えてます。しかし本書は正々堂々と性善説を主張し、数多くのデータや実例を挙げてそれを証明していきます。その見事な展開は、ページをめくるごとにワクワクさせるものがあります。
今まで心理学系の読みものも何冊か読みましたが、定番といった感じでミルグラム実験やスタンフォード監獄実験などが取り上げられていました。それを読んで人間の危うさ、恐ろしさを知ったような気になっていました。それらの実験がでたらめだということが本書で次々と看破していくうちに、知ったかぶりだった自分がどんどん恥ずかしくなりました。
後半は性善説を前提として、世界をより良くする方策が提案されています。意外なことに、以前読んだ『ティール組織』に書かれた組織のマネージメント(をしない)手法が、性善説との繋がりで語られていました。ノルウェーの快適な監獄なども含め、時代はそちらの方向に進みつつあるのかな、とかすかに希望を見出せる気がしました。
ここで思い出したのが、M1グランプリでも活躍したお笑いコンビの「ぺこぱ」です。彼らのネタは、従来のボケを否定する文法でのツッコミから一転して、すべてのボケを逆に「許容する」ツッコミをすることで面白さを生んでいます。その「寛容」の空気が本書の内容ど重なって見えます。そこにも新しい時代の流れが見えるような気がします。
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