ルネサンス期の政治思想家のマキャベリの名著です。政争に巻き込まれ官僚をクビになり、引きこもっていた彼が、復職を目指して権力者に向けて献上するために書きました。君主が国を安定して治めるためのノウハウ本です。古代に栄えた国や、当時のイタリア諸国の興亡の歴史がふんだんに紹介され、その主張の根拠とされます。”愛されるより恐れられるほうが、はるかに安全である”、”加害行為は一気にやってしまわなくてはいけない。恩恵は小出しにやらなくてはいけない”、などの、目的のためなら道徳的に悪とされる行為もいとわない冷酷な現実主義が「マキャベリズム」とう言葉を産みました。そんなレッテルが貼られた本書ですが、しっかりと中身を読めば、イタリア混迷の時代において君主は「やむを得ず」非道な行為をしなければ生き残れないという冷静な視点が伝わってきます。
感想
本書について一般に語られるイメージから、国を治めるためなら暗殺も含めて何をやっても良い、という強烈に非道徳的な内容を想像していました。でも実際読んでみれば、いたって冷静で現実的な視点で書かれていて、当時の権力者の感覚なんてそんなものなんじゃないの?というレベルの倫理観に思えて肩透かしでした。でも解説によると意外なことに、この本の倫理観は出版当時から問題視されていて、多くの批判にあって見向きもされない本だったようです。やっと内容が評価され始めたのは300年以上経った19世紀になってからだというのです。
でも考えてみれば、古代の代表的な思想家プラトンやアリストテレスは完全に道徳重視の政治思想家でした。プラトンなんて、善い行いを続けた結果、周囲の悪によって自分が殺されようとも、悪に走るよりもより幸福だと説いたくらいです。そこから中世はキリスト教が人々の思想を支配した時代ですから、なるほど、このマキャベリの思想が当時の人々に衝撃を与えたというのも納得です。逆に現代人は、ビジネスで成功することを目的とした、道徳の要素が廃されたノウハウ本が本屋の棚に溢れる時代を生きています。民衆や貴族、自分の仲間までも政治の道具としてしか見ていないところはさすがにひどいとは思いますが、主張しているノウハウそのものにはそれほど違和感を感じないのではないでしょうか。
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