【書評】街を見るレンズの倍率が上がる『建築デザインの解剖図鑑』

技術

地理や歴史や建築などについての入門書などを読んで新しい知識がつくと、街を歩いている時に目に入ってくるものの見え方がガラッと変わり、楽しむポイントが増えるという経験ができます。本書は、見るものにズームする時の倍率をぐっと上げて、建物やインフラなどの、普段全く気にしないようなデザインのディティールをマニアックに解説してくれます。地形や暗渠、橋などのスケールから始まり、どんどん細部にフォーカスしていきます。擬洋風建築や看板建築などについても、細かい造りや装飾などの細部にこだわって解説されています。行き着く先には塀、玄関、戸袋ときて、瓦の種類にまで見開きで説明があります。神社などは定番の建築洋式は省き、あえて「鳥居」の分類が書かれているマニアックさです。

スケールの幅もさることながら、ジャンルのバリエーションもすごいです。路地、交番、タバコ屋、石垣、仏像、橋の親柱、看板、などなど、挙げていったキリがありません。まさに街で目に入るもの全てを分類して、歴史をたどり、構造や機能を紐解いていくといった感じです。この本を編集した方々が世界を見ている目っていったいどうなってるんだと思ってしまいます。「のれん」の様式なんて、普通気にしないですよ。小難しい日本史や地理学や建築様式のような知識ももちろん良いものですが、こういった日常にあるなんでもないディティールにこの本が見せてくれるような小宇宙を感じることができれば、どこにいても人生楽しめそうな気がします。

基本情報

作者:スタジオワーク(環境や風景のフィールドワークグループ)

発行日:2013/6/3

ページ数:176

ジャンル:NDC 521, 工学>建築学>日本建築

読みやすさ

難易度:ビジュアル先行で読みやすいです

事前知識:むしろない方が感動が大きいかも

おすすめ予習本:むしろ本書が建築などを学ぶ際の予習本に最適

目次とポイント

1章 地形を読み解く:坂、川や湧水、町割など、大きなスケールの要素

2章 まちなみを探る:橋、鉄道、路地、寺社、店、交番など、インフラ系

3章 建築探訪のススメ:擬洋風、和洋折衷、看板建築、長屋、町屋など、ちょっとマニアックな建築様式

4章 細部のこだわり:屋根、壁、玄関、塀、瓦など、細部へズーム

5章 まちに出よう:街歩きの準備とツール

感想

読んでいて楽しいのはもちろんなんですが、一方で少し焦りのようなものも感じてしまいました。この本で紹介されているような日本の過去の歴史の面影を色濃く残した建物や公共物が、果たしていつまで見ることができるのかという焦りです。日本は地震や火事や戦争で何度も街をスクラップ&ビルドしてきた歴史があるせいでしょうか。既存の物が持っている歴史とか背景などの固有の要素を残さず、いったん壊して理想的で最適化された物をゼロベースで作ることを好む傾向があるような気がします。

かと言って、それが悪いとか古いものを残せとか言うのもなんか違う気がします。だって、私たちが古くて味があると思う建物だって、せいぜい明治時代の100年前そこそこで、江戸時代からしたら十分スクラップ&ビルドされているわけです。そういった急激な変化も楽しみつつ、それでもうっすらと残ってしまう歴史の痕跡を見つけ出す楽しみこそが、健全なんだと「思いたい」自分がいます。そうは言っても、やはり古いものを残したいというノスタルジーが心の奥にあるのは否定できのが辛いところですが。

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