【書評】『仕事と人生に効く 教養としての映画』伊藤弘了

芸術

大学で映画について教えている著者が、映画の見方を基礎から教えてくれる本です。映画を無心で楽しむだけではなく深く考えて読みとくことで、人生が豊かになり、さらに仕事にも生かせる部分があるというメッセージが書かれています。映画の歴史や手法などの基礎知識から始まり、著者が専門とする小津作品をはじめとする具体的な作品の読み解きの例が紹介されます。

感想

本書は、そこまで映画好きではない大学生二人との対話形式で書かれていて、入門層にも映画の深読みの魅力が伝わるように配慮されています。映画を見るメリット→映画の基礎知識→読み解きの例→アウトプットの仕方、というように非常に丁寧な構成になっています。

案外、こういったライトなビジネス書っぽい感じでかかれた映画の解説本は他に見当たらないので、かなり貴重だと思います。おそらく著者も戦略的にそこを狙っています。映画関連の本は、マニアにむけたマニアックなものか、おしゃれな感じのもののどちらかが多い印象です。そこをあえてビジネス書っぽい装丁、タイトル、キャッチフレーズにして広く一般の人に手に取ってもらおうという著者の意図が感じられます。もっと多くの人に映画の深い魅力を知ってほしい、という思いが感じられて良いです。

『東京物語』をはじめとする作品について、著者が画面から読み解く深い解釈は、漠然と観ていると気が付かないけど、教えられると「そうだったのか!」という驚きがあります。例えば、画面内に並んでいるコップの水面の高さが全部揃っていて、さらにそれに意味があるなんてことは、普通に観ていたら絶対に気づきません。これから映画をもっと緻密にじっくりと観たい、という衝動が湧いてきます。

最近私たちは、Youtubeをはじめとして、短時間で、ザッピング的に見れて、テンポ良く編集された動画コンテンツに慣らされてしまっています。そんな中、なぜ2時間もかけて、集中力と頭を使って映画を観るのか。その価値をあらためて認識させてくれる本書は間違いなくおすすめです。

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