宮崎駿監督の劇場アニメ『ルパン三世 カリオストロの城』の絵コンテ集です。「絵コンテ」はアニメの作画にに入る前に作られる設計図で、簡単な絵とカットの説明、それからセリフが書かれています。簡単な絵と言いましたが、宮崎駿監督の絵コンテに書かれている絵はほぼそのまま原画にできそうなほどの完成度です。だからこれを読んでいると、まるで漫画を読んでいるように普通に作品を楽しむこともできます。それもカメラワークや人物の動き、ちょっとした内面描写といった解説付きです。監督がどんな意図で画面構成や動きを設計しているのかはあまり書かれていませんが、それを考えながら本書を一冊読み終えれば、アニメに限らず映画などを観る新たな視点を養えるのではないでしょうか。
感想
よっぽどその作品のファンでもない限り、絵コンテをわざわざ読む人も少ないかもしれません。でもこれ、映画を観るための勉強に最強です。全体の起承転結、カメラワーク、人物の動き、セリフ回し。それらを映像をリアルタイムで観る時の何倍もの時間をかけてじっくり追う作業は、「考えながら」映画を観るための訓練にぴったりです。
付属の解説によると、宮崎駿監督はこの作品はアニメ作りの技術的なことをとにかく詰め込んだものだとなかば反省的に語っています。確かに物語としてはかなりシンプルで、エンタメとしての面白さに重点がおかれている印象があります。その分、絵コンテを読んでその技術を垣間見るのは最高に楽しい作業です。
対象とする読者は当然、大のジブリファンたちだろうとは想像します。でも、これはもっと一般にアニメ好きや映画好きの人に気軽に読んでみてほしい本です。読めば絶対に面白いですが、なかなか手が出ないだろうな、ともうと残念です。
カリオストロの城という作品自体についていうと、こうしてじっくり作品を「読んで」みると、単に楽しい活劇というだけはない、なんとなくの切なさや寂しさを改めて感じることができました。中年になって無鉄砲な情熱を持つこともできない。まっとうな人たちと隔絶した世界でまっとうでない仕事を繰り返すルパンが、とてもまっとうな少女に恋をします。ラスト、カリオストロのお宝はあまりに「本物」の価値を持つ物で自分なんかのポケットにはおさまらない。そして助けた「本物の」女性を抱きしめたい気持ちを抑えて、いつもの繰り返しの日常に戻っていく。そんな風にしみじみと作品を楽しめてしまう自分もまた、中年になってしまったという一種の切なさも感じてしまいました。
コメント