性格の違いをいくつかに「分類する」する方法ととは違って唯一科学的に根拠のある理論、「ビッグファイブ」を扱った本です。ハーマンモデル同様に、性格の違いをあるタイプに分けるのではなく、5つの特性因子の大小で連続的に評価します。その5因子は経験則やイメージからではなく、統計的に抽出されたものです。おおげさではなく、私はこの本を読んでから、生きるのがだいぶ楽になったと感じています。
相関係数から独立した因子を抽出
ある母集団に自分の性格や行動について様々な質問をした時、例えば「社交的」と「旅行好き」の点数の間に相関があることが分かります。それらに加え「競争が好き」とか「セックスが好き」などとも互いに相関があったとします。それらを一つの因子に置き換えて、それを「外向性」と名付けます。それは先の4つの質問と高い相関を持つ因子になっています。そうやって相関のあるものをまとめていき、最終的に残るのが5つの独立した因子です。その5つはお互いの相関がほぼ0になるようになっています。
この方法は純粋に科学的な方法で、因子を決める人の感性は一切入っていません。エニアグラムをはじめとする性格「分類」本とは全くの別ものです。性格診断としての分かりやすさ、面白さ、簡便さはエニアグラムなどには及びませんが、ビッグファイブは唯一「科学的に正しい」と言える理論です。
特性5因子
5つの特性をご紹介します。
- 外向性・・報酬に対する反応の強さ。社交的で物事に熱中する
- 神経質的傾向・・不快なものに対する反応の強さ。心配性でストレスを受けやすい
- 誠実性・・衝動より計画を優先。自己管理できて有能
- 調和性・・利他的。共感力があり他人を信頼して助ける
- 開放性・・連想と異常体験。独創的でクリエイティブ
ここで重要なのは、性格はこのどれかに分類されるのではなく、それぞれの大小で表現されるということです。例えば、外交的なのに心配性、誠実だけど人に冷たい、などといった人も存在するということです。エニアグラムで感じる「どっちにも当てはまるのにな〜」という違和感の正体がこれなのです。
「ダメな性格」なんてない!
冒頭で生きるのが楽になったと書きました。その理由は、この本でそれぞれの特性の自然淘汰の上での有利な点と不利な点の両方を進化論の観点からちゃんと説明してくれているところです。私はかなり神経質傾向が強いんですが、正直言って日々不利に働くことばかりです。新しいことに踏み出せない、人付き合いが苦手、ストレスに弱い。
でもそれは今置かれている環境が比較的安定していて、何かで失敗しても命に関わるようなことが少ない現代社会だからです。人類の長い歴史において、神経質傾向が生存に有利な環境と不利な環境とに変化し続けてきた中で、今の世の中がたまたま不利な時代というだけなのです。そういう風に考えると、よく言う「ダメな性格」なんてものは存在しないんだと思えます。今たまたま不利なだけで、いつそれが役に立つ環境になるか分からないのです。そうやって自分の性格を客観的に見て、その特徴をどうやってコントロールしていこうか、と冷静に考えられるようになった気がします。
遺伝の影響は50%
もう一つ面白いのが、一卵性双生児の研究によると、性格に対する遺伝の影響は50%程度なんだそうです。あれ、意外と残り50%はその後の環境次第で変えられるのか?と一瞬前向きになりそうですが、読み進めてみるとそうとも言い切れないようです。まだ十分に解明されていないため結論は書かれていませんが、影響する環境要因の仮説を見ると、時期が妊娠中や幼少期に限定されているからです。兄弟の生まれ順、妊娠中の母親の栄養状況、生まれた季節などです。
意外なのが、性格は育った家庭環境の受けないんだそうです。一卵性双生児の、一緒に育ったグループと別々に育ったグループを比較すると、なんと性格の共通度に優位な差がなかったそうです。思ったよりも、親が子供の将来に与える影響って小さいのかもしれません。
世界を変えるポイント
誰でも自分の性格で嫌いな部分があると思います。そして他人に対しても、性格が嫌いな人は周囲にたくさんいるでしょう。それが原因で悩んだりストレスを感じたりしてしまうものです。でもこの本を読めば、人々の性格がどう違っていて、なぜ違っているのか、を進化心理学の観点で納得することができます。それで日々の問題が解決されるわけではありませんが、感情的に悩まずに、冷静に合理的にその問題に対処できるマインドを作ることができるようになります。この本を本当におすすめしたい理由がそこにあります。楽しかったり仕事の役に立つだけではなく、心の安定に抜群の効果があると思うんです。
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