【書評】読書はこの一冊から『哲学用語辞典』田中正人

哲学

哲学と聞くと、なんとなく小難しい文章で書かれていて素人には理解しにくいイメージがあります。そのせいで、日々読書する中でなかなか哲学という分野に手を出せないでいました。そんな時、この本を見て衝撃を受けました。哲学の難しい理論が、ポップなイラストによる図解を使って、1ページもしくは見開きで一目でわかるように解説されています。その図解だけを眺めるだけで、なんとなくですが哲学用語の意味がイメージで理解できてしまうのです。これは画期的です。

著者は哲学の専門家ではなく、デザインの専門家です。そのため、哲学に初めて触れる素人が、予備知識なしに読めるように徹底的に難しい表現をなくしています。イラストに描かれた人間や動物などが単純に可愛くて、それをながめるだけでも楽しい本になってます。

読書趣味の最初の1冊におすすめ

読書でいろいろな分野の知識を広く浅くつけたいと思っている人にとっては、この本が「最初の1冊」にすごくおすすめです。それはなぜかと言うと、哲学という分野が歴史的に見て多くの学問分野の共通祖先にあたるからです。『学問のしくみ事典』という本に学問の系統図があるのですが、その中で哲学は、その系統図のほぼ一番上にあり、学問が分岐していく系統樹の最も太い中心の幹になっています。

本書に最初に登場する哲学者である古代ギリシアのタレスという人がいます。当時の人々は、身の回りにある物の起源や自然現象の原因などを、宗教などの虚構をベースに考えていました。例えば雷はギリシア神話のゼウスが起こしている、という風にです。ところがタレスという人は、自然にある万物の根元は水であると考えました。これは、自然の根元を神話ではなく自然そのものに求めるという、理性による合理的な思考の始まりでした。

このタレスに始まる自然哲学が、哲学自体の始まりであると同時に、現代まで繋がる科学的な考え方の基礎にもなっています。なんとなく哲学と科学って全く違う分野だという先入観があったのですが、意外にもその起源は同じところにあったのです。

そもそも哲学って何?

まず「哲学」という学問がそもそも何を扱う学問なのか?という疑問がありました。それが分かるかな、と思って本書を読み進めましたが、結局はそこに明確な定義はなさそうです。この用語集の冒頭に「哲学」という用語の説明は出てきません。最初に出てくるのは「自然哲学」という哲学の一分野の名前です。本書に出てくる哲学のテーマは様々です。形而上学、認識論、倫理、実存主義などなど。それら数多くの分野をまとめてなんとなく「哲学」と呼んでいるような印象です。

個人的に勝手に持ったイメージとしては、合理的な思考の厳密性をとことん突き詰める学問という感じです。例えば自然科学でいうと、「物体の加速度は受ける力に比例する」みたいなことを実験で実証していきます。一方で、物体は人間の意識の外に本当に実在しているのか?誰かが認識している観察結果は、他の人にも同じように認識されているのか?といったそもそも論から厳密に考えていくのが哲学だというイメージです。

世界の見方が変わるポイント

本書を読むと、今まで聞いても全く意味が分からなかった哲学の用語や哲学者についての広くて浅い「にわか」知識を一通りつけることができます。それによって何か考え事をする時に、哲学的に厳密に考えたり、そもそも論で考えたりする習慣がつくでしょう。

一方で、本書はあくまで用語集という形式が徹底されているので、哲学の大きな歴史の展開みたいなものはなかなかつかめません。それ加えて単純に哲学者たちへの興味も湧いてくることもあって、もっと哲学の勉強をしたい、という欲求がすごく湧いてきます。さらに、哲学のテーマは科学、政治、心理学へと繋がっていきますので、そういった他の分野への興味も刺激されます。いろいろな意味で、読書好きな人にとてもおすすめな本です。

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