【書評】右vs左で世界は読み解けない『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』茂木誠

政治

政治のニュースなどでよく「右」と「左」という対立軸で語られることがありますが、正直よくわからない人も多いのではないでしょうか。それもそのはずで、世界情勢が複雑化するのに伴って、主張の差異を作る要素がどんどん増えてきており、もはや1次元の対立軸では語れなくなっているからです。自由vs平等、国家vs個人、資本主義vs共産主義、自由貿易vs保護貿易、差別の大小、軍拡vs軍縮、などなど・・。本書では、そういった思想を整理する軸を、「自由vs平等」「グローバリズムvsナショナリズム」の2つで整理するノーラン・チャートというものを使って、各国の過去から現在に至る政治思想の変遷を解説しています。

基本情報

作者:茂木誠

発行日:2020/11/28

ページ数:224

ジャンル:NDC 311, 社会科学>政治>政治思想

読みやすさ

難易度:読みやすい文章です

事前知識:あまり必要ないですが、政治や歴史の知識が全くない人が最初に読む本としては難しいかもしれません

おすすめ予習本:

目次とポイント

第1章 ナショナリズムとグローバリズムの「シーソーゲーム」:投資の規制をなくしたい金融資本と、関税で国内市場を保護したい製造業の対立。各国がナショナリズムに向かった2010年代

第2章 「米中冷戦」の思想史と強いロシアの復活:ナショナリストの習近平とプーチンvs国際金融資本

第3章 「超国家EU」崩壊の序曲:ユーロ安の恩恵を受けたいドイツのEUグローバリズムvsイギリス、ナショナリズムに向かいつつあるフランス

第4章 グローバル化するイスラム革命:イスラム教圏における価値のグローバリズム

最終章 日本の思想史と未来:新米・新自由主義の小泉政権から、派閥連合的な安倍政権へ

感想

本書の2軸のチャートのように政治は指導者層の「思想」の対立によって語られます。思想と言うと「何が正しいのか」と言う観点での議論に見えます。でもそれは決して正義と正義の主張の対立ではなく、結局は誰の利益を優先するのか、という国家、階級、業界、人種などの間の対立にすぎないように見えます。本書を読むにつれその思いが強まります。自由vs平等は富裕層vs貧困層の対立だし、グローバリズムvsナショナリズムも、国際金融資本vs国内産業の対立です。政治思想は、結局はそれぞれの個人が自己の利益を追求するための方便でしかないのではないかという虚しさを感じてしまいます。

本書は政治思想の変遷と対立をわかりやすく解説してくれますが、ではどういう思想であるべきか、という著者自身の主張が一切なかったのが残念です。もっと勉強して、自分の思想というものを持たないとな、と思わされます。なんとなく、本書のチャートの真ん中あたりに位置する中庸の思想が求められる気はしていますが。

コメント

タイトルとURLをコピーしました