古典的な経済学の入門書を開いてみると、結構難しい数式とグラフが並び、なんとなく数学的に厳密な学問なんだろうな、という印象を受けます。でもその議論の土台にはかなり大雑把な前提があって、「合理的経済人」と呼ばれています。取引を行う人間が、市場の価格情報を完璧に知っていて、商品の価値(=自分の満足度)を定量的に正しく把握でき、その他余計な情報に影響されずに合理的な判断をする人間の集まりだと仮定するのです。でも、実際の人間の判断はとても不合理的です。何かの比較対象があるとそれに引きずられて価値判断を間違ったり、無料!という言葉に必要以上に魅力を感じたり、性的に興奮したとたんまともな判断ができなくなったり・・。本書はそんな人間の不合理な部分を扱う「行動経済学」の研究者が書いた読み物です。人間は不合理ですが、一方で何の傾向もなくはちゃめちゃという訳ではありません。タイトルの「予想どおり」とは、人間の不合理な面にもある程度の一貫性、傾向があるという意味です。本書では、著者が大学生などを対象に実施した数々の面白い実験結果をもとに、その傾向を明らかにしていきます。
基本情報
作者:ダン・アリエリー(行動経済学者)
発行日:2013/8/23 (文庫)
ページ数:496
ジャンル:NDC 331, 社会科学>経済>経済学
読みやすさ
難易度:簡単です
事前知識:不要です。むしろ余計な知識無しに読んだ方が目から鱗感を味わえるでしょう
おすすめ予習本:一般的な経済学の入門書を読んでおくとより楽しめるでしょう
目次とポイント
相対性の真相:比較対象によってバイアスがかかる。人間は絶対評価が苦手
需要と供給の誤謬:最初に見た価格や最初の選択に引きずられる
ゼロコストのコスト:無料であるものに過大な価値を見出す
社会規範のコスト:物事を金銭や契約で捉えると、互恵性や社会規範が失われる
無料のクッキーの力:無料であることによって社会規範が引き出される
性的興奮の影響:そういう気分の時は、どんなにまともな人でもバカになる
先延ばしの問題と自制心:先延ばし癖を理解して、それ防ぐための手法を使う
高価な所有意識:すでに所有しているものに過剰な価値を見出す
扉をあけておく:何かを失うことに対する過剰なストレスで判断を誤る
予測の効果:事前の予測によって印象が左右される
価格の力:思い込みで病気が改善するプラセボ効果は、偽の薬の値段が高いほど高い
不信の輪:一度信用を失うと、合理的にそれを取り戻すのは難しい
わたしたちの品性について その1:誠実な人でも、ごくごく軽い不正であればやってしまう
わたしたちの品性について その2:お金が直接絡むと、人は不正をしにくくなる
ビールと無料のランチ:不合理にも傾向がある。それを理解することが重要
感想
本書の市場規範と社会規範についての話を読んでドキッとしました。世の中もそうだし、自分もそうなのですが、最近物事をどんどん合理的に考えるようになってきている気がします。正しいことをするとか、他人を無条件に助けたりするとか、そういう感情の部分がどんどん劣化して、損か得か、効率が良いか、お金や時間のコスパが良いか、そんな事ばかり考えがちな自分に気づきます。確かにそれによって間違った判断を避け、幸せな人生を過ごす助けになるのは確かです。でも一方で、みんながそういう発想になった社会は、助け合いがなくなり、不正がはびこる状態になりかねない、ということを本書は警告してくれます。
本書は、決して不合理な人間をどうしようもない不都合なもの、として扱っていないところが良いです。実験で明らかになるちょっとおかしな人間の不合理な面を見ていくにつれ、そんな人間というものがとても愛らしいものに見えてきます。
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