『図説 心理学用語大全』を読み終えたので、さらにもう少し詳しい入門書を読もうと思って手に取りました。本書はDK社の大図鑑シリーズの心理学編です。歴史上の主な心理学者を1人1~6ページ程度で解説しています。学者は系統ごとに分けて時系列に並んで紹介されています。さらに学者ごとに影響を受けたり与えたりした人が前史、後史という形でまとめられていて、心理学の歴史の流れを大まかにつかむことができます。
この本はどちらかと言うと最新の心理学研究の図鑑ではなく、これまでの心理学者の歴史についての物語といった印象です。心理学の誕生から、どんな人が一分野を切り開いていき、その後どんな人がそれを発展させていったのかと言うストーリーを楽しむ本だと思います。だから、すごく読みやすくて面白いです。一方で、今の時点で科学的にもっとも正しい理論を知りたいという人はもう少し専門的な本を選んだ方が良いでしょう。
これから心理学の本を読み始めようという人にはもちろんおすすめですが、今まで心理学の知識を応用したビジネス書なんかを何冊か読んできた人には特におすすめです。本書を読めば、今までバラバラだった心理学のトピックたちを、一つの歴史の中に位置付けて整理することができます。
人間の心の弱さと恐ろしさ
読んでいてもっとも印象に残ったのは、社会心理学の分野でのいくつかの実験結果の話です。有名な「ミルグラム実験」では、権威ある人の指示であれば、普通で真面目な人の多くが平気で非人道的な行為をしてしまうことが示されました。また「スタンフォード監獄実験」では、ロールプレイングにもかかわらず、看守の役割を演じる人がどんどん感謝役の人に対して権威を振りかざしてひどい行為を始めたそうです。
今日本に住む人の多くは、自分はそんなに残虐な行為ができる悪人ではないとなんとなく思っていると思います。私自身もそうです。でも、それは自分を取り巻く環境次第でどうなるかわからない、すごく不安定な良心だということを心理学は教えてくれるのです。現代人が忘れてしまっている、自分を含めた人間というものの弱さと恐ろしさを再認識して理解を深めておくためにも、心理学の勉強はすごく大事だと思います。
入門書を読んで知ったかぶりの危険
こういう入門書を読むと、そこで得たにわか知識を実生活で話したくなりますが、ちょっと待てと自分に言い聞かせたいですね。まず、読みやすく結論部分だけをまとめた入門書には、心理学者それぞれの理論がどうやって生み出されたかの背景にある、臨床事例や実証実験のデータがほとんど示されることはありません。それを知らずに、分厚い図鑑に書いてあったからといってそれが正しいと思い込むのは、まさに権威主義的なマインドでしょう。
これはあくまで入門書であって、心理学の知識を本当につけるためには、これをガイドにしていろいろな本を読んでいき、読書の方向性を心理学の各分野の詳細にフォーカスしていくようにしたいものです。
コメント