【書評】グローバル時代に必要な知識『宗教学大図鑑』

宗教

DK社の人文・社会系の大図鑑シリーズの「宗教」編です。世界の主な宗教の成り立ちや特徴が、分かりやすい文章で解説されています。アニミズムやシャーマニズムなどの原初の信仰から、現在の世界宗教であるキリスト教やイスラム教まで、古今東西のいろいろな宗教について基礎知識を一通り学ぶことができます。

宗教を比較する軸が分かる

宗教についてなんとなくの知識しかない状態でしたが、本書でさまざまな宗教や宗派について読んでいくうちに、それらを比較するいくつかの軸が分かるようになってきます。

まず信仰の対象がどんなものか。キリスト教やイスラム教は一神教で、唯一の神を信仰します。イスラム教ではアラーですが、キリスト教は父(神)と子(キリスト)と聖霊という3つの信仰の対象があります。長年の論争の末、ローマ帝国時代に、それらは全て同一のものだという三位一体説が定説となりました。ヒンドゥー教は様々な信仰や習慣・文化の集合体であり多神教です。ただし一部の宗派では「ブラフマン」という神々を含む全てのものの本質というような哲学的な概念もあり、ヒンドゥー教イコール多神教だと単純に言えないところもあるようです。一方で仏教はちょっと特殊です。人間個人が苦しみから解放されて解脱するためのメソッドといった感じで、神という信仰の対象があるわけではありません。ブッダや菩薩は、全治全能の神ではなく、あくまで解脱を助けてくれる存在です。

どこまで形式を重視するかという軸もあります。ある宗教の歴史の流れの中で、初期の経典に対して実践の乖離が生まれてくると、もともとの教義に立ち返ろうとする原理主義の宗派が生まれたりします。逆に、儀礼や教義を厳密に守ることが過度に重視されている場合に、本来の個人の内面における信仰に焦点をあてる新宗派が生まれることがあります。ルターの宗教改革から生まれたプロテスタントなんかがそうで、教会がなくても個人が聖書を読むことで信仰は実践できるということが主張されました。でもあまりに形式を軽んじると今度は信仰心を保つのが難しくなってくるという面もあり、たいていの宗教の宗派の歴史は、形式と内面とのバランスの間で揺れ動いているという印象です。

グローバル時代に必須の知識

職場でも普段の生活でも、海外の人と接する機会は年々増えてきています。そんな中で無宗教の日本人が、例えばイスラム教徒の方々が祈りや断食をすることに対して理解していない状況だと、社会のシステムとしても人間関係としても上手くいかないのは当然になってきます。一度はこういった本で世界の宗教についてひととおり浅い知識を入れておくことは、もはや必須だと言っていいでしょう。逆に、みんながみんなの宗教観について理解していれば、差別や偏見をなくしてより良い職場や社会を作ることもできます。という訳で、この本は特定の宗教を信じてる人にも信じていない人にも、万人におすすめしたいです。少々高いし重いのがつらいところですが。

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