【書評】学習スキルの百科事典『独学大全』読書猿

その他

受験、資格試験、仕事など、人生の様々な場面で人は何かを学ばなければなりません。本書は「学び」を継続させ、効果を高めるための手法を紹介した本です。動機付けや資料探しなど、あらゆる段階で起きる悩みごとに対して、徹底的に具体的で今すぐ使えるスキルを教えてくれます。そしてこの本の特徴は、「独学」を前提にしていることです。独学は授業のカリキュラムが決まっていて誰かに強制される学習とは違い、何をいつ学んでも良いし、いつやめても良いものです。そういった環境で自分をいかにコントロールするか。組織に属さずとも、いかに世界中の情報にアクセスするか、を知ることができます。

700ページ以上ある大著ですが、意外と通読するのも苦になりません。というのも、章のはじめに学びたい若者と師匠との会話形式の導入部があって入りやすいです。また、それぞれの手法の紹介と合わせて、その引用元となった過去の知者達の研究やエピソードがコラム的に語られるので、それだけで読み物として楽しめます。一度通読して、傍に置き、その後の学びで困った時に道具箱として必要なところを再読するのが良いでしょう。一生使える本にになりそうです。

基本情報

作者:読書猿(正体不明)

発行日:2020/9/29

ページ数:788

ジャンル:NDC 379, 社会科学>教育>社会教育

読みやすさ

難易度:全てが具体的な内容で、とても読みやすいです。

事前知識:不要です。知識を得る方法を書いた本なので当然ですね。

おすすめ予習本:世界にどんな知識の海が広がっているかを概観できます。

目次とポイント

第1部 なぜ学ぶのかに立ち返ろう

第1章 志を立てる:学ぶ動機を再確認する

第2章 目標を描く:現在地とゴールへのルートを可視化する

第3章 動機付けを高める:ステップを細分化して着手のハードルを下げる

第4章 時間を確保する:時間は増えない。ある時間に使える5感によって最適な学習法を選ぶ

第5章 継続する:怠けたい本能をいかに騙してコントロールするか

第6章 環境を作る:外部にコミットすることで強制力を生む

第2部 何を学べばよいかを見つけよう

第7章 知りたいことを発見する:今ある知識を整理し、それと関連する事柄を探索する

第8章 資料を探し出す:正しい検索語、階層をまたいだ検索、探索の記録付け

第9章 知識への扉を使う:事典→書誌→教科書→論文、の流れで資料にあたる

第10章 集めた資料を整理する:資料同士の関連性を可視化する

第11章 情報を吟味する:認知バイアスを外して情報の中にある矛盾を見つける

第3部 どのように学べばよいかを知ろう

第12章 読む:読み方は通読だけではない。速読、平読、精読を使い分ける

第13章 覚える:歴史の中で編み出された記憶術の数々を使いこなす

第14章 わからないを克服する:「わからない」を分類し、アプローチを変える

第15章 自分の独学法を生み出す:独学の手法自体も自分の手で絶えず進化させていく

第4部 独学の「土台」を作ろう:国語、外国語、数学を題材にしたケーススタディ

感想

まず何より、著者の読書猿さんの幅広い知識に驚愕させられます。本書で引用される理論や文献は、人文、社会、自然科学と分野をまたぎ、さらに古典から現代まで広い時代をカバーしています。著者は自身が専門というものを持てなかったと述べていますが、それはあくまで各分野の学術研究者のレベルと比較しての話です。私のような無知くんから見れば、もはや知の巨人に見えてきます。

本書を読み、そんな読書猿さんの知識の海に触れることで、学びに対する意識が変わりました。まず、自分が学校というものを出てからいかに学ぶことをサボってきたかという現実を痛感されされました。それなりに読書はしているつもりですが、読みやすく楽しい本を読んでいるばかりで、何か本当に学んだといえるようなものがない。一方で、本当に本書から得られた物はそんな危機感や後悔ではありません。仕事などで役に立つための学びでなくても、単に広い知識を身に付け、関連づけ、新しい自分に変わることの喜びを味わいたいという気にさせてくれることが一番大きいです。

専門でなくても、独学でも、継続して何かを学び続ければ、新しい自分になれるかもしれないと思わせてくれる。それでいて、勉強法の事典として徹底的に活用できる。本当にすごい本です。

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