それは1人のトラック運送業者の挑戦から始まった―。巨大化するコンテナ船、巨大化・自動化する港湾の行方は?
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感想
現在、中国やベトナムなどで作られた安い製品が日本中どこでも買えるのが当たり前です。しかも製造業のグローバリゼーションは最終完成品の輸出入にとどまりません。製品の構成部品、さらにその部品の構成部品、最後には素材に至るまで、あらゆる国から最も安価に調達できる場所が選ばれ加工され、組み立てられています。そんな当たり前で身近なサプライチェーンの背景に、輸送業界における一大イノベーションがあったことを教えてくれるのがこの本の面白いところです。
そのイノベーションの最初のアイディアはひどく地味です。船にばらばらの荷物を人力で積み込んだり下ろしたりするのではなく、大きな箱(コンテナ)をトレーラーから直接船にクレーンで積むというものです。しかしその地味な一歩がその先に数々の効率化の追求のきっかけとなり、輸送コストを極端に下げていくことになります。コンテナの企画を世界で共通化し、船とトラックと鉄道の間で直接コンテナを載せ替え、出発地と目的地に対して最も安価なルートを最小限の人件費で運べるようになるのです。その発展の歴史は決して天才的で高度な科学技術などではありません。地味な効率化のアイディアの積み重ねが、最終的に大きな変革を生んで世界を劇的に変えていく流れは、本当に面白いです。
さらに興味深いのは、本書のある意味マニアックな輸送業界の話におさまらない、全てのイノベーションに多少なりとも通じる教訓として読めるところです。最初のアイディア、最初の商品化、既得権益の反発、困難な規格統一、雇用の破壊、企業や都市や国家間の競争、派遣企業の栄枯盛衰、などなど。最近の自動運転やAIなどのイノベーションの多くに当てはまりそうな普遍的なパターンが読み取れる気がします。
私自身も製造業に関わる身なのですが、部品調達を検討する際に、組み立て工場がどこであろうと、世界中の企業から「製品価格」が最も安いところを選ぶというのが基本です。その際に当然輸送費も考慮するのですが、荷姿が良ければ地球の裏から運んだとしても驚くほど輸送コストが安いのです。その背景にこんなに面白いコンテナ革命の歴史があったなんて知らなかったです。世界中の人の生活に直接関わる話なのに、本書を読むまでまったくそんな情報に触れなかったのですから、本当に貴重な本です。
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