AIとビッグデータで大きく時代が変わっていく中で、日本という国が今どういう立ち位置にいるのか。そして今後どういう戦略をとって行くべきなのか。本書では、豊富なデータに裏付けられたシビアな日本の現状認識と、そこから日本が勝つために打つべき戦略をロジカルに、熱く語っています。逆に言うと、日本にはまだ打って出るだけのポテンシャルが残っている、という希望を与えてくれる本でもあります。
今のままだと日本は負け組
日本はすでに経済大国の地位から堕ちつつある、ということがよく言われますが、正直それを信じたくない気持ちもありました。だからこういうタイトルを見て、日本は大丈夫だという希望を持たせてくれるんじゃないかという淡い期待を持って読み始めました。ところが、本書を読み進めると、もう本当に日本は負けているんだ、というシビアな現実を突きつけられます・・。印象論ではなく、いろいろなデータがグラフで示されていくので、言い訳しようのない説得力をもってその事実を突きつけてきます。
デジタル上の膨大なデータを使って学習されたAIによって、様々な知的生産が自動化される時代を著者は「データ×AI」の時代と呼んでいます。そこで必要なのは、①大量のデータ収集力、②圧倒的なデータ処理能力、③十分な情報系の人材、だそうです。そのどれもが、アメリカと中国に負けているどころか、主要先進国の中でも下位に沈んでいる。それがデータでしっかりと示されます。
著者は、読書を慰めるために楽観的な展望を語ってくれはしません。日本のことを本当に真剣に考えているからこそ、その厳しい現実を包み隠さず教えてくれてるんだろうというのが伝わってきます。
勝つための方法はある
その厳しい状況から抜け出すための戦略がそれに続いて語られます。でも、それは日本が一気に勝ち組になるような特効薬ではありません。情報系の技術者や、技術を活用して事業を起こせる人材を育てるための教育改革。高齢者への福祉を数%削って、それを基礎研究の予算にあてる。著者が提案するのはそんな地道で着実で長期的な戦略です。奇抜なことを言って読者に面白い読み物を提供するのではなく、データを基にした真剣な提案ばかりです。
そしてそれはあくまで日本が勝つために「やらなくてはいけないこと」です。日本には高いポテンシャルがあるから、将来勝つことができる!というような楽観論では決してありません。このまま国の制度や政策が変わらないまま続けば、負けることがわかっている状況なのです。日本全体が現状を認識して危機感を持ち、そういった戦略を進めていかなければ暗い未来が待っているだけです。
そんな本書の中で、日本に対して希望を持てるな、と思える部分もありました。それは、日本の状況はひどいものだが、それは言い換えれば、データ×AIの時代を見据えて周りの先進国がやっている当たり前のことをやれば、状況が大きくよくなる「伸びしろ」を日本は持っているというメッセージです。その伸びしろを伸びしろのままで終わらせる国になってしまうのか、これからが日本の正念場ですね。
後世のために動き出す誠実さ
この本で個人的に一番面白かったのは、著者が取り組む「風の谷」の計画です。地方の過疎化の対応として、地方年に人口を集めてインフラの効率をあげる「コンパクトシティ」のコンセプトが主流になりつつあるようです。そんな中、都市から離れて自然と人が調和して暮らすナウシカの「風の谷」のような住環境を作るためのプランを作る活動だそうです。
紹介されているそのプランニングの過程がめちゃくちゃ面白いんです。集落をゼロベースで作ることを想定し、必須なインフラは?効率的なインフラの形は?それを実現するための住民一人当たりの費用負担は?刺激的で楽しい都市に勝る魅力とは?・・などなど、その思考実験の過程を追うだけでワクワクします。そこでもやはり現状認識はシビアで、子育てや医療など、風の谷を実現するハードルの高さもちゃんと把握して、理想と現実を見て議論を進めているのです。
ぜひ本書を手にとって、そこに書かれた「風の谷憲章」を読んで見て欲しいです。こんな場所があったら絶対に住みたい!と、心から思える理想的なコンセプトが書かれています。
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