【アニメ】ディズニーなのに辛い『シュガー・ラッシュ:オンライン』ネタバレ感想

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ディズニーの劇場アニメ『シュガー・ラッシュ:オンライン』のネタバレ感想です。最後に作品をより楽しむための参考図書も紹介します。

ラルフとヴァネロペの対比

ラルフはその見た目に似合わず、内向的でリスクを恐れる性格です。自分やヴァネロペの身を危険にさらすようなものは極力避けようとします。いざ危ないシーンになると勇気を出して行動できるんですが、基本的には心配性です。日常の変化を好まず、今が幸せならその状態が永遠に続くことを望んでいます。刺激より安定を優先するタイプです。ずっと敵役で嫌われてきた過去もあってか、ヴァネロペという親友との人間関係に極度に依存していて、その関係が永遠に続くと信じて疑いません。周囲の空気を読んだり、自分を客観的に見るのが苦手なので、たまに暴走して周囲に迷惑をかけます。ここまで書いてきて、すでに若干辛くなってきました・・

一方のヴァネロペは外交的で刺激を求めるタイプです。変化のない日常に退屈していて、新しい世界を求めています。ネットの世界にもすぐ順応して、危険なゲームにも躊躇なく飛び込んで行きます。ラルフと違い今の人間関係に固執することもありません。ネットの世界で新しい夢を見つけるが、そのためならラルフと離れてしまうことに抵抗はなく、あるのは彼を傷つけたくないという優しさだけです。

ネットの世界 = 今という時代

この作品の最も楽しいところは間違いなくネット世界の表現です。検索エンジン、オークションサイト、動画サイト、SNSなどが見事に3次元の世界としてビジュアルで表現されています。笑えるあるあるネタの宝庫で、これだけでこの映画を観る価値があります。そしてこのネットの世界は、ゲームセンターという古い世界に対する、現代の新しい世界そのものに見えます。ラルフ達がいたゲームセンターは、職業や人間関係が固定された古い社会です。ゲームごとに区分けされ、変化の少ない日常が過ぎていきます。一方ネットの世界は、膨大なコンテンツに瞬時にアクセスでき、様々なキャラとの出会いがあります。まさにヴァネロペのためにあるような世界ではないでしょうか。

そしてなにより特徴的なのはそのメタ視点です。このネット世界の表現そのものが、全てを一歩引いて客観視して、それをネタにするような現代社会の縮図になっています。仕事中にYoutubeで動物の動画を見たり、バカバカしい動画をひたすらザッピングして「いいね!」する現代人の姿をネタにしているますが、それを自虐ネタとして楽しんでいるだけで、決して否定しているわけではないのです。

その行き着くところがディズニー自らプリンセスたちをネタにしたシーンです。「男の人がいないと何にもできないと思われてる?」というセリフは、単に固定した女性像を否定する表現なんかじゃないです。もはや一周回って、80年代以降にディズニープリンセスものに対して世間でよく言われてきた批判のパロディになっています。それをディズニーの劇場アニメど真ん中でやることが受け入れられる。そんなメタ視点の世界に私たちは生きています。

ラルフの試練

そんな世界でラルフは辛い試練を受けることになります。一生一緒だと思っていたヴァネロペが新しい世界に出て行くのを止めようとするあまり、ネット世界に崩壊の危機を招きます。メタ視点を持てず、相手に共感することができず、自分のイタさにも気づけません。ヴァネロペの、夢のためなら今の人間関係に縛られない生き方を理解できない古い感性です。

そして最後には、自分のエゴがウィルスとなって具現化してヴァネロペを襲います。それはラルフ自身の見た目をした巨大でおぞましい姿で、それを見たラルフはようやく自分を客観的に見ることを学ぶのです。あまりに辛くて恥ずかしい場面で、ラルフのような鈍感な人でなければ自我が崩壊しかねない気がします。

ディズニーとは思えない辛いラスト

ラストはとっても切ないです。ラルフは古い世界に取り残されて、親友はどんどん新しい世界を切り開いていきます。ラルフもゲームセンターの友人とそれなりに楽しい日々を送りますが、ヴァネロペがいない心の穴は埋まらりません。ヴァネロペを見て勇気を出し、自分も新しい世界に飛び出して行く!・・といった安易なハッピーエンドをこの映画は用意してはくれません。ヴァネロペに会いたい自分を抑え、週に一回チャットで会話をするだけで、自分の世界での日常を送り続けるのです。

これはシビアすぎる現状認識の物語です。ラストには100%の幸せが必ず待っている、そんなディズニーは過去のものになったようです。安易な答えは与えられず、これを観て自分自身を認識するというスタート地点までしか連れて行ってくれません。ディズニーはラルフでなく、ヴァネロペになろうとしているような気がします。

参考図書

『パーソナリティを科学する』ダニエル・ネトル

ラルフとヴァネロペの対照的な性格は、性格のビッグファイブ特性にあてはめて考えて見ると分かりやすいです。外向性と開放性のヴァネロペに対し、神経質傾向と誠実性のラルフといったところでしょうか。

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