【書評】美しい話をしてエロスを賛美しよう『饗宴』プラトン

哲学

古代ギリシアの哲学者プラトンの有名な対話篇です。悲劇詩人のアガトンの家での宴会の中で行われた、愛の神エロスを讃える演説合戦の様子が描かれています。エロスは人間に美しいものを求める欲求を呼び起こさせる神です。何人かがエロス賛美を語った後に、プラトンの師ソクラテスがエロスについての持論を語ります。ソクラテスは人間がエロスを認識する段階を梯子を登ることに例えます。異性や同性の肉体を愛することから始まり、次に心を愛する、そして知識を愛するという風に段階を経て、最終的には永遠で普遍的な真のエロスの姿を見ることができるというのです。抽象的な真理を語るプラトンのイデア論の考え方を垣間見ることができます。最後は破天荒な政治家アルキビアデスが酔っ払って乱入し、ソクラテスを誘惑しようとして失敗した話や、ソクラテス賛美を語って終わるところがなかなか笑えます。

光文社古典新訳文庫で読みましたが、全編の1/3あまりが解説です。各人のエロス賛美の解説だけでなく、当時の宴会の方式や同性愛(少年愛)などの文化についても詳しく書かれていて、私のような初心者にはすごく嬉しい構成です。

基本情報

作者:プラトン(古代ギリシアの哲学者)

成立年:紀元前4世紀

翻訳者:中澤務

発行日:2013/9/10

ページ数:295

ジャンル:NDC 131, 哲学>西洋哲学>古代哲学

読みやすさ

難易度:とても読みやすい翻訳です

事前知識:時代背景が解説で詳しく書かれているので、特に不要だと思います。

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目次とポイント

第1章 うたげのはじまり:あまり語られることのないエロスについて語り合うことに

第2章 パイドロスの話:少年愛を通じて人は名誉と羞恥心を得る

第3章 パウサニアスの話:男性愛は天のエロスで、女性愛は俗のエロス(!)

第4章 エリュクシマコスの話:エロスは人間だけではなく自然のあらゆるものに働いている

第5章 アリストファネスの話:太古に完全な人間が2つに分けられ、片割れを求めるようになった

第6章 アガトンの話:エロスは美しくよいもので、それを人間に与えてくれる

第7章 ソクラテス、アガトンと対話する:エロスが美しさを求めるということは、つまり美しさを持っていないことになる

第8章 ソクラテスの話:人間はよいものを残すために美しいものとの間に子を作る。美が次第に上昇し「美のイデア」になる

第9章 アルキビアデス登場:酔っ払いのアルキビアデス乱入

第10章 アルキビアデスの話:ソクラテスを誘惑しようとして失敗した話。戦争中のソクラテスの忍耐力と思索にふける様子

感想

人間がよいものを永遠にするために、美しい女性との間に子供を作ったり、少年愛を通じて知識を伝えたりするという話は、進化論を思い起こさせるものがありました。子供を残すための衝動を与えるエロスの働きは、さながら利己的な遺伝子の振る舞いのようでもあります。また知識を愛人(少年)に伝えていくことは、リチャードドーキンスの「ミーム」の考え方を思わせます。

人間の究極目的が「幸福になること」だという言葉は非常に明快で好きです。幸福になるというのはすなわち「よいもの」を得るということで、その衝動をエロスが与えてくれるのですから、エロスは人間が生きる上での根源的な要素だということになります。

ソクラテスのイデア論的な究極のエロスについての説明は、抽象的であまりピンときませんでした。もう少し勉強して理解を深めたいと思います。

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