古今東西の映画の歴史を網羅的に解説してくれる貴重な本です。網羅的と言っても、「事典」というほど多くの作品を掲載しているわけではありません。掲載する映画の本数よりも、その時代の映画の状況をテーマごとに解説することに重きを置いている印象です。さらにハリウッド作品に偏ることなく、アジアや南米などを含めた世界中の作品を紹介しているので、誰もが知っているメジャーな作品が意外と載っていなかったりします。見開きで紹介されている作品も、ベスト作品ではなく啓蒙度の高さで選んでいると述べられています。その分、通読して映画の歴史を学ぶには最適な本になっています。ハリウッドや日本映画の歴史をまとめた本はそれなりに見つかりますが、黎明期からの映画全体の歴史についての本はなかなかありませんので、映画の入門書としておすすめです。
基本情報
編集:フィリップ・ケンプ(映画評論家)
発行日:2016/12/9
ページ数:576
ジャンル:NDC 778, 芸術>演劇>映画
読みやすさ
難易度:読みやすいです
事前知識:映画が好きである程度の作品数を鑑賞している人でないと、全く知らない作品の話が続いて読むのが辛そうです
おすすめ予習本:
目次とポイント
第1章:1900年~1929年:黎明期にしてすでに成熟期、サイレント
第2章:1930年~1939年:トーキーと戦争の影
第3章:1940年~1959年:プロパガンダ、フィルムノワール、西部劇、ヌーベルバーグ
第4章:1960年~1969年:ニューシネマ、SF
第5章:1970年~1989年:ハリウッド超大作、アクションと冒険
第6章:1990年代以降:CGIと特殊効果
感想
魅力的な最新作が日々公開される中、過去の名作映画は意識して観るようにしないとなかなか触れる機会がありません。それでも最近は動画配信サービスが充実してきて、白黒の時代も含めた過去作品を手軽に観ることができる良い時代になっています。コロナ禍で時間ができたのもあって、そういった古い作品をいくつか観るようになって驚いたのが、かなり昔の映画の完成度が予想を超えて高いことです。今の映画のテンポに慣れていると、集中して観るのがつらいかもと思う作品でも、意外と最後まで楽しく観れます。観た中でもっとも古い作品が1930年の『西武戦線異状なし』でしたが、90年前の映画とは思えない完成度で今でも十分すごいです。
そんな中この本を読んでさらに驚きました。映画が誕生したのが19世紀の終わり頃。その後1910年までには今ある映画のジャンルのほとんどが発掘され、1914年までには声・色・3D以外のほとんどの映像技術が発明されていたと言うのです。映画と言う分野の進化の速さは予想以上でした。ということは、西部戦線〜が公開された1930年は、映画の歴史でいえばすでに成熟期に入っているのです。そう考えると、その頃の作品が今でも鑑賞に耐えるというのも納得できる話なのです。
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