タッシェン(Taschen)というドイツのアート系の出版社から出ているディズニーランドのビジュアル歴史解説書です。残念ながら日本語訳は出ておらず洋書のみです。ですが、ディズニーランド好きでこれを読んでない人は今すぐ買って欲しいです。計画段階から開園、そして現在までのディズニーランドの美麗な写真やアートワークの数々が大きなサイズで楽しめます。ウォルトたちスタッフの姿、マップや建物の立面図などのプラン、製作中のアトラクション、開園当時のパーク内の様子などなど、膨大なビジュアルを眺めているだけで十分で、英語の解説を読まなくても買う価値ありです。文章も最小限にまとめられており、辞書(スマホ?)を片手に頑張って読んでみることも十分可能だと思います。
感想
ウォルト・ディズニーが天才的なクリエーターであることは疑いありません。でも意外というか、むしろ当然なのかもしれませんが、ディズニーランドのアイディアは彼がゼロから生み出したものではないことが本書を読むと良くわかります。近所のグリフィスパーク、デンマークのチボリ公園、イギリスのベコンスコットのミニチュアの街など、数々の既存の公園からインスパイアされています。シカゴの鉄道フェアーに行ったウォルトは、自宅にミニサイズの鉄道を走らせ、最終的にはそれをパークの主役にします。その他にも、口を開けたピノキオの鯨や、インディアンの村、レストランの装飾に至るまで、外からアイディアをふんだんに持ち込んでいたことがわかります。アイディアは0からは生まれない、何か既存のものの組み合わせやアップデートであることを実感させられます。
東京ディズニーランドに美女と野獣のエリアができたり、昨今ディズニーランドの変化の激しさを感じます。でも、実はディズニーランドが1955年にカリフォルニアに完成したその日から、ウォルトの生前からどんどんアップデートを繰り返しているということが本書からわかります。そもそもトゥモローランドは開園当時は未完成だったそうです。大人気アトラクションの一つにビッグサンダーマウンテンがありますが、昔は同じ場所にNature’s Wonderlandというゾーンがあって、アメリカ各地の大自然が再現されたゾーンを列車で巡るアトラクションがあったそうです。トゥモローランドも、人類が月に到達した後に「トゥデイランド」になってしまったアトラクションを刷新したりしています。
東京ディズニーランドの古いアトラクションが廃止されるために寂しい気分になりますが、カリフォルニアでパークをアップデートしてきた当のスタッフたちも同じような気持ちで仕事をしていたようです。ウォルトの好きだったアトラクションを撤去する際にイマジニアたちが「オレたちはなんてことをしてるんだ・・」と不安になっていたというくだりは泣かせます。Submarine Voyageという潜水艦のアトラクションもいったん廃止されましたが、ベテランのイマジニアの熱烈な働きかけで、Finding Nemo Submarine Voyageとして復活を遂げたそうです。
開園当時のエピソードから、1964年のニューヨーク博、EPCOTの計画、ウォルトが亡くなって以後の一連の新アトラクションと、現在までの歴史についても簡潔ながら情報量豊富に解説されています。ディズニーファンの間で本書があまり知られていないのは本当にもったいないと思います。どうやらTaschenは日本語版の制作から撤退したそうで、翻訳が出る見込みは薄いようです・・。
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