【映画】未来を背負わなくていい『天気の子』ネタバレ感想

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劇場アニメ『天気の子』のネタバレ感想です。最後に作品をより楽しむための参考図書も紹介します。

「雨の東京」は今の日本の象徴

劇中の東京は、異常気象で毎日雨が降り続いています。雨の中の街並みの描写は新海ワールド全開で、本当に美しいです。冒頭、陽菜が病室の窓から外を見るシーン、雨で霞むビル群と窓際で踊る雨粒が重なります。そこからはもう美しい風景のオンパレードです。もうこれを見るだけで十分ですね。ちょうど現実の東京も梅雨を抜けるかという季節ですが、実際の街の見え方を変えてしまいそうだと感じるくらいです。

個人的な解釈ですが、この美しい雨の東京は、これから経済的に沈みゆく日本の象徴じゃないかなと思いました。人口も減って行き、過去の経済大国からゆっくりと衰退に向かう日本。雨が止まず、なんとなく陰鬱な東京の風景がその日本の状況と重なります。須賀が取材に行った神社の神主さんいわく、この雨は異常気象でもなんでもない。観測を始めたのなんてせいぜい百年程度の話だと。日本が経済的に豊かだったのなんて、百年どころかもっと短い期間です。でもなんとなくそれが「正常な状態」だと、みんなが思っているんじゃないでしょうか。

「晴れ女」は搾取される弱者の象徴

そんな東京で、親がいない中で経済的に貧しくても懸命に生きる陽菜は、バイトをクビになったのをきっかけに風俗で働こうとします。すんでのところで帆高に無理やり助けられ、風俗に足を踏み入れることはありませんでした。その代わりに始めた仕事が、祈ると自分の周囲が晴れるという能力を使った「晴れ女」です。

天気が晴れてみんなが喜ぶことにやりがいを感じる陽菜ですが、フリーマーケット会場を晴れにするシーンですごく気になるところがありました。3400円でバイトを受けたのにも関わらず、喜んだ依頼主が奮発して2万円をくれるのです。「おねえちゃん可愛いからね」と。この価格設定とこのセリフ!なんとなく風俗を連想させると感じたのは自分だけでしょうか。たまたま帆高に助けられましたが、もしもその偶然がなければ、風俗で働いていたのが陽菜の現実なのです。

後に「天気の巫女」は人柱であり、その犠牲と引き換えに天気を「治療」する存在であることがわかります。能力を使いすぎると神隠しにあうのです。晴れ女の力を使いすぎた陽菜は体が透けていき、最後には水になって空の上に消えていきます。そのおかげで東京には晴れが戻ってきますが、晴れを喜ぶ人々は陽菜が犠牲になったことを知りません。そのことを知らず自分を追いかける警官(=大人)たちに帆高は怒り、銃を取り、陽菜を助けるために走ります。

誰かにとっての「豊かな日本」を維持するために、若者や貧しい人たちが搾取され犠牲になる。でもその豊かさを享受する人々は、その犠牲に対してまったく無自覚なのです。帆高が激昂して警官や須賀に銃を向けてまで逃げようとする姿を見て、正直自分は感情移入できませんでした。どちらかというと心の中は冷静な大人たちの反応に近いものがありました。でも後でその構図と合わせて自分の立ち位置を考えてみると・・なんとも言えないぞわぞわした感覚を覚えました。

未来を背負わないという決断

帆高は東京の晴れと、陽菜を救うことの選択を迫られますが、迷うことなく陽菜を助けることを選びます。その結果、東京の雨は数年やむことなく続き、下町などの低地が水に沈んでしまう悲劇が起きます。陽菜が犠牲になることをやめた代償は、一見ものすごく大きいように見えます。

しかしそこで描かれる東京の姿は、それこそ新海ワールドそのものの美しい世界でした。水に半分沈み緑がおおうビル群。船が江戸時代さながらに東京を行き交っています。人々の中に悲しみはなく、新しい世界でしっかりと日常生活を送っているように見えます。家が沈んだせいで高層マンションに引っ越した立花さんは言います。東京の土地の多くはもともと海だった。元に戻っただけなんだと。

豊かさを守るために特定の人達から搾取して犠牲にする世界より、世界のありのままをみんなで背負っていく世界がいい。勝手にですが、そんなメッセージをこの作品から受け取りました。

参考図書

『高校生からわかる「資本論」』池上彰

古典の解説本ですが、労働者がどのような仕組みで搾取されるのかが、とてもよく分かります。

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