【書評】『女の子の謎を解く』三宅香帆

文学

「なんで男女逆転モノって少女漫画に多いんだろう」「なんで姉妹キャラって基本的にお姉ちゃんのほうが落ち着いているんだろう」「なんで大人数のアイドルって流行ったんだろう」流行りだから…と片付けずその謎を深掘りすると、世間の深層心理も、私たちが抱えている問題も、その描かれ方がすべて伝えてくれる。注目の書評家・三宅香帆が、コンテンツにおける女の子を読み解き、世の中を考察します。

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感想

本書は映画、小説、漫画、アニメ、アイドルなど様々な作品に登場する「女の子」に着目して語っています。いわゆる「フェミニズム批評」のジャンルに入ると思います。普段フェミニズムと聞くと、男性社会を批判する厳しい視点があったり、過去に女性やマイノリティが抑圧されてきた歴史を知ることになるので、見たり聞いたりする時になんとなく緊張感を持って挑んでしまいます。でもこの本にはそんな心配は一切不要です。語り口がとにかく優しくてポジティブで、一人の女の子が好きな作品について楽しく語っているのを傍で聞いているような感覚になれます。しかも、その語りの中身は確かな知識と鋭い分析に裏付けられていて、作品に対する新しい気づきをたくさんもらうことができます。

個人的にみごとだなと思ったのは、宮崎駿と萩尾望都についての章です。男性でありながら作品の中でやたらと少女を活躍させる宮崎駿と、女性でありながら少年を主人公にする萩尾望都の対比を見せ、なぜこのような交差が生じるのかという謎かけを提示します。もうこの時点で答えが知りたくてしょうがなくなるのですが、著者は期待を裏切りません。ネタバレになるので内容は書きませんが、その答えはこうだ、というものが気持ちよく正面から示され、それがしっかりとフェミニズム批評になっているのです。著者があとがきで、批評を読んで世界の見方が変わるのが好きだと語っていますが、まさにそういう経験をさせてくれる本でした。

もう一つ目から鱗だったのは、AKB48に代表される大人数のアイドルグループにおける、競争や連帯などの演出の背景に「新自由主義」があるという指摘でした。そういう見方があるのか!という驚きが本当に気持ちが良かったです。そう考えると、大ヒットしている『鬼滅の刃』も、人間を食い物にする鬼たちが新自由主義のメタファーかもしれないなと思うようになりました。他の作品を観る時の、そんな新しい視点もゲットできる本書、おすすめです。

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