【書評】私にかの男の物語をして下され『オデュッセイア』ホメロス

文学

『イリアス』と並ぶ、古代ギリシアの詩人ホメロスの2大叙事詩のうちの1つです。ギリシアとトロイアの戦争を語ったイリアスのその後を描いた作品です。ギリシア軍の知将オデュッセウスがトロイアから帰国の途中、神々の介入もあって数々の苦難に遭います。何年もかけてあちこちを放浪した末に、遂に自領のイタケに帰還するまでの物語です。オデュッセウスがいろいろな場所を訪れ、神々から助けられたり邪魔されたりしながら苦難を乗り越えていく冒険のストーリーは、紀元前8世紀頃の作品とは思えないほど、今読んでも楽しめる内容になっています。

基本情報

作者:ホメロス(古代ギリシアの詩人)

成立時期:紀元前8世紀頃

翻訳者:松平千秋(古代ギリシア文学者)

発行日:1994/9/16

ページ数:上 394, 下 365

ジャンル:人文科学>文学>古代ギリシア文学>叙事詩

読みやすさ

難易度:多くの人がイリアスを読んだ後に読むと思いますが、独特の言い回しに慣れた後であれば読みやすい文章です。

事前知識:単独で読んでも問題はありませんが、やはり前日譚であるイリアスを読んだ後に読むのがおすすめです。トロイア戦争を10年近く戦った後にこの苦労か・・と思って読めば、ラストの感動もより一層高まります。

おすすめ予習本:

目次とポイント

第一歌 神々の会議。女神アテネ、テレマコスを激励する:横暴な嫁への求婚者たちのせいで嫁と息子がピンチ。オデュッセウス早く帰ってきて!という完璧な舞台設定

第二歌 イタケ人の集会、テレマコスの旅立ち:主人公の前にまずは息子の旅から語り始め、徐々に盛り上がる

第三歌 ピュロスにて:テレマコスが父の戦友ネストルに会う。イリアスとオデュッセイアの間の出来事が少しずつ分かってくる流れが良い

第四歌 ラケダイモンにて:今度はメネラオスに会う。徐々に大人びてくるテレマコス。求婚者が帰りを襲おうと待ち構える展開がサスペンス的で良い

第五歌 カリュプソの洞窟。オデュッセウスの筏作り:島で女神に監禁されていたオデュッセウスが筏で島を出る。息子のラインと並行して話が進む構成が良い

第六歌 オデュッセウス、パイエケス人の国に着く:流れ着いたオデュッセウスを助けるのが王女ナウシカア(!)。あのキャラの名前のモデルですね

第七歌 オデュッセウス、アルキノオスに対面す:やたらともてなしてくれる優しいパイエケス人

第八歌 オデュッセウスとパイエケス人との交歓:イリアスの後の「トロイの木馬」のシーンが語られる

第九歌 アルキノオス邸でオデュッセウスの語る漂流談、キュクロプス物語:ここで第五歌以前の成り行きを語り出す。時系列が前後する構成が今風ですごい

第十歌 風神アイオロス、ライストリュゴネス族、およびキルケの物語:自国に着く直前でトラブルでまた逆戻り、そこからまた別の女神の島で1年も過ごす

第十一歌 冥府行:冥府に行ったらイリアスとその後に死んだ仲間たちが大集合。アキレウスとかアガメムノンとか

第十二歌 セイレンの誘惑。スキュレとカリュブディス、陽の神の牛:いろんな神に手下が全員殺される凄まじい展開。でも神々が会議で生き残り認定したオデュッセウスは無事

第十三歌 オデュッセウス、パイエケス人の国を発ち、イタケに帰還:なぜかお土産をごっそりもらって遂にイタケに帰還。でもやっぱり楽には帰れない。最後に船が沈む

第十四歌 オデュッセウス、豚飼のエウマイオスに会う:乞食に化けて身分を隠し、求婚者をやっつける準備

第十五歌 テレマコス、エウマイオスを訪れる:求婚者の待ち伏せを華麗にかわすテレマコス

第十六歌 テレマコス、乞食(オデュッセウス)の正体を知る:父子の感動の再会。敵を倒すまでは嫁には内緒

第十七歌 テレマコスの帰館:他人の家で家畜を食いまくる求婚者と同席した乞食オデュッセウスがからまれて一悶着

第十八歌 オデュッセウス、イロスと格闘す:引き続き求婚者との小競り合い

第十九歌 オデュッセウスとペネロペイアの出会い、足洗いの場:嫁と対面して他人の振りをする。乳母には足の傷でバレてしまうが、内緒でよろしくと言い聞かせる

第二十歌 求婚者誅殺前夜のこと:ラストバトルの前の小休止

第二十一歌 弓の引き競べ:乞食かと思いきや弓を達人級に使いこなす!というスカッとする展開

第二十二歌 求婚者誅殺:ばったばったと求婚者を皆殺しにする。その後密通していた女中たちも殺すとこがえぐい。その後で淡々と死体を片付けるシーンがシュール

第二十三歌 ペネロペイア、乞食(オデュッセウス)の正体を知る:共通の秘密を言って嫁に自分だと信じさせる感動の再会シーンと、その後のいちゃいちゃ

第二十四歌 再び冥府の物語。和解:求婚者の遺族を返り討ちにした後で和解。めでたしめでたし

感想

『イリアス』ではあくまで現実の人間世界を描き、その裏で神々が間接的に介入してくる理性的なスタイルだったのに対して、本作はオデュッセウスが直に神々との接触を持つファンタジー的な世界観です。女神のヒモになったり、強過ぎるキュクロプス族に頭脳戦を挑んだりと、一転して自由な発想で描かれています。そのため奇想天外で目まぐるしい展開になっており、素直に読んで楽しい物語になっています。

構成も見事で、息子のテレマコスの時間軸、オデュッセウスの時間軸、オデュッセウスが語る過去の時間軸などが非連続的に展開します。イリアスの後に読み始めると、イリアスのラストから10年弱経ったところから始まるので、その間に何があったのか?と気になりながら読んでいくことになります。それを本作中の登場人物が回想という形で徐々にその間のストーリーを埋めていくので、ワクワクしながら読めました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました