【書評】アガメムノンの妻だなどとは思わないで『ギリシア悲劇 I アイスキュロス』

文学

古代ギリシアで、それまで合唱による音楽中心の儀式に俳優の演技が加わり、演劇の形式が誕生しました。その中でも3大悲劇作家と言われるのがアイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスです。アイスキュロスは3人の中で最も古く、それまで俳優1人と合唱隊で構成されていたのを、俳優を2人に増やして劇中に対立構造を生み出しました。当時悲劇は3部作で上演されていましたが、3作揃って現存する唯一の作品『オレステイア』を本書で読むことができます。どんなに権力や富を持った者も、神々によって導かれる悲劇的な運命から逃れられない。そんな宗教的な教訓のある話が、合唱隊の壮大な歌に合わせて展開されます。

基本情報

作者:アイスキュロス(古代ギリシアの劇作家)

成立時期:紀元前499年〜

翻訳者:呉茂一、他

発行日:1985/12/1

ページ数:483

ジャンル:人文科学>文学>古代ギリシア文学>ギリシア悲劇

読みやすさ

難易度:とにかく翻訳が読みにくいです。まず漢字が難しくて、スマホで変換できないようなものも頻出します。言葉使いも古くて、神道用語っぽい表現が難しいです。原文のイメージを伝えるためにそうしてるんでしょうけど、正直辛かったです。

事前知識:やはりギリシア神話の大雑把な知識はあった方が楽しめます。読みながらネットで調べても良いかも知れません。『オレステイア』は『イリアス』と『オデュッセイア』の間の話なので、ホメロスを先に読んでおくのがおすすめです。

おすすめ予習本:

目次とポイント

縛られたプロメテウス:神様同士の正義が対立していて、絶対のものではない。ゼウスが無慈悲で冷徹で恐ろしい・・

ペルシア人:打ち負かした敵の嘆きを、そちらの視点の劇にして「ざまあみろ」と楽しむのだから、当時のギリシャ人は共感力が低かったのでしょう

オレステイア三部作(アガメムノン、供養する女たち、慈みの女神たち):アガメムノンの非道を発端に、悲劇的な恨みの連鎖につながるが、最後は厳正な裁判の末にオレステスがそれを断ち切る

テーバイ攻めの七将:7つの門の攻略に7人の個性豊かな敵将が配置され、守るテーバイ側も7人をあてがう。なんとなく少年漫画的な構図が良い。最後は運命に逆らえない王家の末路が悲しい

救いを求める女たち:自国の利益と宗教的な正義のどちらを取るかの葛藤

感想

とにかく神話の神々の恐ろしいこと。一度間違った行いをすれば、子々孫々までそれをあがなう羽目になります。その恐ろしさや不安を、コロス(合唱隊)の歌の部分が、とても詩的で劇的で壮大なイメージを伝えてきます。翻訳した文章でどれだけ伝わってきているのかは分かりませんが、当時劇場で実際に歌と踊りを鑑賞していた人たちはすごく感情を揺さぶられたんだろうな、と想像してしまします。

『オレステイア』で最後にオレステスが裁判で無罪を勝ち取る時の理屈が、現代のジェンダー感からするとひどいです。母親殺しは許されないと主張する復讐の女神ですが、それに対してアポロンが言う反論です。母親は父親の種を宿す単なる入れ物に過ぎないので、子が母を殺しても親殺しには当たらないと。その根拠は母親なしでゼウスから生まれたアテネの存在だと。そしてそのアテネがこの裁判の裁定者です。法廷もののドラマのような切れ味のある論破で見事ですが、現代人からすると「おいおい・・」と言いたくなる女性の扱いですね。

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