【書評】おお光よ、これがお前の見おさめだ(オイディプス王)『ギリシア悲劇 II』ソポクレス

文学

古代ギリシア三大悲劇作家の一人、ソポクレスの悲劇集です。ギリシア悲劇の最高傑作と言われる『オイディプス王』をはじめとして、アンティゴネ、エレクトラといった名作がおさめられています。ソポクレスは初めて俳優を3人に増やしたそうですが、アイスキュロスがまだコロス(合唱隊)の歌で状況や感情を表現することに重きが置かれていたのに対し、セリフのやりとりに主眼が移っている印象です。

基本情報

作者:ソポクレス(古代ギリシアの非劇作家)

成立年:前468〜

翻訳者:高津春繁、他

発行日:1986/1/1

ページ数:555

読みやすさ

難易度:1巻のアイスキュロスの翻訳に比べるとだいぶ読みやすいです。コロス(合唱隊)の歌の部分は多少古文風ですが、会話劇が主体なので慣れてくるとすらすらと読めます。

事前知識:ギリシア神話の知識があった方が良いですが、訳注で軽く解説してくれるので必須ではありません。

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目次とポイント

アイアス:名誉にこだわり過ぎて破滅する名将アイアス。埋葬するかで揉める王と息子の間をとりなすオデュッセウスがイケメンすぎる

トラキスの女たち:浮気したヘラクレスの気をひこうと妻が媚薬を送るが、それが知らずに毒となりヘラクレス瀕死で激怒、それを知った妻自殺、ヘラクレスが息子に浮気相手と結婚しろと言い残して死んでゆく

アンティゴネ:国を裏切った弟を、王クレオンから禁止されているにも関わらず埋葬するオイディプスの娘アンティゴネ。その罰で洞窟に閉じ込められ自殺。それを見た許嫁である王の息子が自殺。それを聞いた妃が自殺。クレオンが人間社会の秩序を重視して宗教的倫理と対立した結果、破滅する

エレクトラ:娘を生贄にしたアガメムノンを浮気相手と組んで殺す妻。息子と娘がその復讐を果たす。呪われたアルゴス王家に襲いかかる悲劇の連鎖のうちの1エピソード

オイディプス王:自覚せずに、父をそれと知らずに殺し、母親と結婚して子供を作るオイディプス王。それによる呪いで自国テーバイが衰退している。その事実を知って嘆き、自分の目をつぶすオイディプスの心理描写が見事。呪われた行為を否定するアリバイを信じたいオイディプスだが、それが徐々に崩されていく緊迫感のある展開が良い

ピロクテテス:トロイ遠征中に怪我をして島に置き去りにしたピロクテテスを、置き去りにしたオデュッセウス当人が彼のヘラクレスの弓での戦況打破を目当てにトロイに連れ戻そうとする。当然大揉めになる二人を、ヘラクレスが霊が現れて取り持つ。デウス・エクス・マキナの好例

コロノスのオイディプス:盲目となったオイディプスが放浪の末、神と和解して神々のもとで死を迎える。しかしその呪われた子供たちのもとにはさらなる悲劇の連鎖が待っていることが『アンティゴネ』で描かれている

感想

オイディプスを含むテーバイの王家といい、アガメムノンの一家といい、どんなにあがいても神々の意志による悲劇の連鎖から逃れられません。当時のギリシア世界の人々にとって、神々がいかに大きな存在であったかがよく分かります。オイディプスは両親が神に背いて子供を作ったことが原因とは言え、彼自身はもとよりその子供たちも含めて、意図して神を冒涜したりしている訳ではありません。しかし、一家にかかった呪いは逃れようもありません。そうなってしまったら、もはや神の導くままに訪れる苦難を受け入れるしか方法はないかのようです。自然現象や社会情勢によって理不尽な思いを強いられることが多かった当時の人々の精神性がそういった物語を作ったのでしょうか。

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