【書評】小説はいかに読むべきか『批評理論入門』廣野由美子

文学

文学を理論的に解明するための方法である批評理論の入門書ですが、本当に分かりやすくて素晴らしいです。なぜかというと、数々の抽象的な理論を羅列するのではなく、実際の文学作品をそれらの理論で読み解く実例の解説がメインに書かれているからです。すごいのは、色々な作品から適当なものを引用してくるのではなく『フランケンシュタイン』というたった一つの作品を取り上げ、全ての理論をそれに当てはめているところです。そうすることで、読者はフランケンシュタインという1作品のあらすじや背景を頭に入れるだけで読み進められるのです。何よりも、読者が本書の理論を使って実際に特定の小説を読み解く際のシミュレーションになっているところが素晴らしいです。本書は前半で文学を作る上でのて技法について学んで基礎を固めた後、後半で批評理論について解説するという構成になっています。これを読めば、小説だけでなく、映画なども含めた物語を見る目線が一段高くなること間違いなしです。

基本情報

作者:廣野由美子(大学教授)

発行日:2005/3/1

ページ数:258

ジャンル:NDC 901, 文学>文学理論

読みやすさ

難易度:具体例に富んでいてとても分かりやすいです

事前知識:不要です。フランケンシュタインを読んだことがなくても問題ありません

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目次とポイント

1 小説技法篇(冒頭;ストーリーとプロット;語り手;焦点化 ほか) :構造、構成、表現方法、引用など、小説がどういう風に「書かれているか」を分析するための視点が分かります

2 批評理論篇(伝統的批評;ジャンル批評;読者反応批評;脱構築批評 ほか):ジェンダーや精神分析、歴史などのさまざまな視点から作品を読み解く、ある意味作品から一歩引いて作品の外の世界まで視点を広げます。さらには、作品で書かれている中心的な意味の存在を否定する「脱構築」といった理論まであります

感想

本や映画の解説が、テキストや動画含めて世の中に数多くあります。その中でたまに「そういうことだったのか!」「その視点はなかった!」とものぐごく感心する解説に出会うことがあります。どうしたらそういった鋭い視点で作品を見ることができるのか、すごいなあ、となんとなく思っていました。そんな中、本書で紹介されている数々の批評理論に触れてみると、良質な解説で語られている視点がだいたいどれかの理論の枠にはまるな、という印象を持ちました。おそらく批評家の方たちの頭の中には学問的知識かは別として、それ近しい理論の枠組みができあがっているのでしょう。それに一歩でも近づくためにも、何か自分の好きな作品を本書の理論に当てはめて読み解いてみるトレーニングをしてみようと思います。

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