【書評】認知科学で本物の英語力をつける『英語独習法』今井むつみ

実用書

人間の脳は注意を向けていることには意識を集中して知覚しますが、逆に集中していないものはとっことん知覚できないようにできています。その注意力をどこに向けるかの基礎となっている知識のシステムを、認知科学の世界では「スキーマ」と呼ぶそうです。生まれてから構築してきたスキーマが、母国語が英語の人と日本語の人で決定的に違っていることが、日本人の英語学習を困難にしているというのです。例えば英語では名詞の可算・不可算を頭に「a」をつけるかどうかで判別します。そのため幼児の頃から、aを聞いた時に、次に来る名詞は可算だ、という風に「注意を向けて」聞くようになります。他にもaとtheの使い分けや、単語の意味が含むものの「範囲」の違いなど、日本語で育った私たちが持たないスキーマを前提として英語話者は会話をしているのです。本書では英語のスキーマを理解して英語をより本質的に学ぶことが学習の近道だとされます。その方法として、単純な英和辞典ではなく、「コーパス」というツールを使って単語が使われる構文、共起語(統計的に前後にどんな単語がくるか)、類義語などを調べる学習法が紹介されています。そのため、まったく英語の初心者ではなく、ある程度は英語を学んだ人を対象としていると思われます。

基本情報

作者:今井むつみ(心理学者)

発行日:2020/12/19

ページ数:282

ジャンル:NDC 830, 言語>英語

読みやすさ

難易度:文章は分かりやすいです。例題は高校の英語レベルは求められます

事前知識:高校まで英語を学んでいれば問題ありません

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目次とポイント

第1章 認知のしくみから学習法を見直そう:英語学習の到達目標を明確にする

第2章 「知っている」と「使える」は別:日本語と英語はスキーマ(認知のベースとなる知識システム)が大きく異なることを認識する

第3章 氷山の水面下の知識:スキーマの構成要素。構文、共起語、文脈、意味、多義性、類義語

第4章 日本語と英語のスキーマのズレ:英語は動詞に様態が含まれ、方向性は前置詞で表す

第5章 コーパスによる英語スキーマ探索法 基本篇:コーパス「SkELL」の使い方

第6章 コーパスによる英語スキーマ探索法 上級篇:コーパス「COCA」「WordNET」の使い方

第7章 多聴では伸びないリスニングの力:スキーマがないと多聴しても意味がない

第8章 語彙を育てる熟読・熟見法:初めはスキーマの要る多読より熟読。教材は映画がおすすめ

第9章 スピーキングとライティングの力をつける:初めはスキーマが要るスピーキングよりライティングがおすすめ

第10章 大人になってからでも遅すぎない:英語を本格的に使うには語彙が最重要。音の聞き分けは生後10ヶ月までしか身につかない

感想

こういう「まっとうな」英語学習本を読むと毎度「英語学習は甘くない」という事実をつきつけらます。本書で紹介されているコーパスを使った熟読をしていくと、英語の文章1ページを読むのに下手をしたら数時間かかってしまいます。でも、そういう努力が必要だということが逃れられない事実なのです。個人的に最重要なのは、どんな教材を選ぶかだと思います。つらい努力ではなくいかに英語のテキストを楽しめるか。そういう意味で、本書で紹介されている映画を使った勉強法はすごく良さそうです。あとは自分がめちゃくちゃ興味があって、どうしても読みたいという思う洋書を見つけて熟読する、などでしょうか。まずはそういう教材が見つけて、コーパスを使った熟読を試してみたいと思います。

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