毎日ニュースでは世界中で起きている社会問題や紛争などのネガティブな話題ばかりが報じられています。それらを見聞きするうちに、こんなことを思うかもしれません。平和で豊かな日本で暮らす自分はたまたま運が良かっただけ。世界の多くの人たちが貧困や戦争の犠牲になっている。自分の平和な暮らしもいつ崩壊するか分からない・・。しかし本書に書かれていることは、それとは全く逆の事実です!なんと世界はあらゆる面でどんどん良くなっていて、今が歴史上で最も人間が幸福な時代だというのです。寿命、健康、食糧、貧困、環境、平和、著者はそれらの状況が年々改善していることを、一つ一つ客観的な統計データを並べていき、明確なエビデンスを示していきます。
啓蒙主義の4つの理念
その人類の進歩の基礎になっているのが「啓蒙主義」の理念だと著者は述べています。そして啓蒙主義が今、ポピュリズムや科学軽視の風潮の中で強い擁護を必要としているというのです。啓蒙主義は17世紀の科学革命の影響を受けて18世紀にヨーロッパで盛んだった「理性」を重視する思想で、その定義は明確ではないと著者は言います。本書では啓蒙主義を、副題にもなっている4つの理念で定義づけています。理性、科学、ヒューマニズム、進歩です。
まず理性によって客観的な基準に照らして他者と議論をする。その理性を用いてこの世界を客観的に理解し、科学を発展させる。科学は人間の住む環境だけではなく、人間そのものも探究していきます。認知科学や進化心理学が発展し、人間の持つ普遍的な特性を明らかにしていきます。その結果、民族や国家といった想像上の概念ではなく、全人類の個人個人が感じる幸福を追求していくヒューマニズムが生まれます。そして科学とヒューマニズムによって、人類はここまで進歩してきました。この啓蒙主義の重要性を説くための根拠として、本書では膨大な情報量でその「進歩」のエビデンスを示していきます。
認知バイアスが反啓蒙主義を生む
人間は理性の力を持っていますが、残念ながらその思考は完全に合理的ではありません。例えば、本書に書かれているような統計データを見ることなくいつもTVで悪いニュースばかり聞かされていると、利用可能バイアスによって「世界は悪い方向に進んでいる」と多くの人が判断してしまいます。そういった不完全な認知能力のせいで、進歩をやめて昔に戻ろう、科学技術が世界を破滅させる、自国だけの利益を守ろう、などといった反啓蒙的な思考に簡単に陥ってしまうのです。
本書の啓蒙主義の主張を読んで、かなり耳が痛いというか、自分の反理性的な面を自覚してゾッとしました。例えばSNSの書き込みなどを見て、そこで語られている空気によって世界の見方が固定されてしまうことが多々あるなと。常にデータなどの客観的な情報に基づいて全てを判断していくことは難しいことです。しかし最低限、常に「自分は今、理性で判断しているだろうか?」と自分に問いかけることはできるはずです。
世界を変えるポイント
本書に書かれている人類の進歩についてのデータは、まさに読者の世界観を「世界は良くなっている」という方向に大きく変えてくれるものばかりです。そして、さらにそこから認識を一歩先へ進ませます。本当に重要なのは「世界は良くなっているし、今後も良くなる」という楽観的な見方をすることではありません。理性を磨き、啓蒙主義の理念を守っていかない限り、この進歩が止まってしまいかねないという危機感を持たないといけないのです。読み応えがあってなかなか気軽に手を出せない雰囲気の本ですが、圧倒的に面白いので読み始めると意外とあっという間です。出来るだけたくさんの人に読んでもらいたい本ですね。
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