ファッションに興味がある人もない人も、服を着ない日はほぼありません。一方で、それだけ身近な服の歴史について触れる機会はなかなかありません。今着ている服が、どんな社会的・政治的な歴史を経てその形や素材に行き着いたのか。本書は、そんなことを考えるきっかけを与えてくれる本です。欧米のファッションに軸を置いて、古代エジプトから2010年代までの服の歴史を網羅的に解説してくれます。図版が本当にものすごい数で、その色とりどりの服の絵や写真をながめるだけでも楽しいです。安くはない本ですが、この内容でこの価格は本当にお買い得だと思います。通読するのは大変ですが、今までおしゃれに興味のなかった人でも一度これを読み込めば、次の日から街ゆく人やメディアに映る人を見る目が一変すること間違いなしです。
基本情報
作者:DK社[編]、深井晃子[日本語版監修]
発行日:2020/10/13
ページ数:480
ジャンル:芸術>デザイン>ファッション
読みやすさ
難易度:難しい文はありませんが、ファッション用語がバンバン出てきます。本文中ではそういった用語の説明はほとんどなく、巻末に用語集としてまとめられています。私はファッション知識ゼロだったので、読みながら巻末の用語集から探したりネット検索を繰り返したりで、読むのにかなり時間がかかりました。もともとファッションに興味がある人にはその辺は苦にならないでしょう。
事前知識:不要ですが、世界史の流れをある程度知っていた方がより楽しめるでしょう。
おすすめ予習本:世界史の入門書なら何でも良いですが、1冊おすすめするならこれです。
目次とポイント
第1章 【先史時代〜紀元600年】古代世界:紀元前3000年頃の古代エジプトの時点で、もう十分ファッショナブル。時代関係なく、おしゃれな人はおしゃれなんだな〜と
第2章 【600〜1449年】中世のロマンスと交易:キリスト教社会なので、比較的落ちついたファッションの時代
第3章 【1450〜1624年】華麗なるルネッサンス:男性服がフォルムの面で最も極端で変テコな時代かも。エリザベス1世の装飾の過剰さは必見
第4章 【1625〜1789年】バロックとロココ:男がレースや刺繍で着飾っていて、女性より女性的な印象
第5章 【1790〜1900年】革命から日常へ:女性が大きなフォルムのスカートで着飾る一方、男性服は一気に現代のスーツに近づく時期
第6章 【1901〜1928年】ベル・エポックと楽天性と若さ ジャズ・エイジ:女性がコルセットから解放される。着やすいストレートな形にモダンな柄や装飾を加えて、いっきに先進的な服装に進化する
第7章 【1929〜1946年】華麗さから有用性へ:大恐慌と第二次世界大戦を経て、布が少なく機能的な服に。女性が作業に動員される戦争の間に、女性の服装のルールが大幅に緩和される
第8章 【1947〜1963年】楽天性と若さ:ディオールのニュールックで時代を逆行した女性的なフォルムに。ティーンネイジャーのカジュアルウェアの登場
第9章 【1964〜1979年】スウィンギング・シックスティーズからグラム・ロックへ:ミニスカート、スーツのカジュアル化、パンツルック、ヒッピー
第10章 【1980年以降】デザイナーの時代:時代を経て様式が出揃い、それぞれのデザイナーたちがそれを引用したり脱構築したりする「個性」の時代に
感想
読む前はなんとなく、人類は歴史が進むにつれてどんどんおしゃれでファッショナブルになって「進歩」してきたんだろうというイメージを持っていました。でも、産業革命後にファッションが大衆化される面はあると思いますが、本書で紹介されているような王侯貴族のファッションの流れを見てその考えが覆されました。古代エジプトやギリシア・ローマの時代からすでに十分おしゃれでカッコいいです。ルネッサンス以降は10年単位で流行が変化していて、丈が長くなったり短くなったり、フォルムがスリムになったりゆったりしたり、装飾的になったりシンプルになったりと、進歩するというよりは行ったり来たりを繰り返しているイメージです。なぜこの服飾の分野がファッション(流行)という名前で呼ばれているのかがよく分かります。
だから本書を読めば、映画や本に出てくる昔の衣装を見るときの解像度が一気に上がります。「昔のヨーロッパの貴族の服」というおおざっぱな見え方をしていたものが、例えばルネサンス、エリザベス朝時代、摂政時代、ヴィクリア朝時代、という風に細分化されていきます。さらに本書片手にじっくり眺めれば、衣装を見ただけで10年単位で時代を言い当てることも可能かも知れません。
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