【書評】『世界は「関係」でできている』カルロ・ロヴェッリ

科学

量子は私たちの直感に反した奇妙な振る舞いをする。著者によれば、この量子現象を理解するためには、世界が実体ではなく、関係にもとづいて構成されていると考えなくてはならないという。さらにこの考え方を踏まえれば、現実や意識の本質は何か、といった哲学的な問いにも手がかりが得られるのだ――。

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感想

以前量子力学に関する本んだ時に感じたのは、これはもはや科学というよりも哲学だな、ということです。本書は、量子力学の概要の説明はそこそこに、まさにその哲学的な話題を真っ向から語っていきます。著者は物理学者でありながら哲学などの人文系の学問にも通じていて、前著『時間は存在しない』同様、そのことがこの本を他に見ない貴重なスタイルに仕立て上げています。さらに文学からの多くの引用をする著者の文章は素晴らしく、科学読みものとはよても呼べない味わい深いものになっています。

私は理系出身ですが、学校で物理や化学などの自然科学を学んでいった時に、人間含めた世界が、自然法則に従って決定論的に変化していく機械のようなものだという認識をまず持ちました。しかし、著者が語ってくれる量子力学の発見を知ると、そのような単純な物の見方が許されなくなってしまうのです。極めてミクロな粒子のレベルでは、物理量は離散的になっていて、しかも状態が確率でしか表現できず、観測することで初めて状態が確定する。しかも位置を観察するか運動量を観測するかで確定する状態が変化する。

一方で、哲学の入門書を読むと、「認識論」というジャンルに出会うことになります。人間が感覚で知覚しているものや、観念的に知っている概念などは、突き詰めればその実在を証明することはできないということになります。量子力学は、その哲学的な世界と科学の世界をいっきに同じ場所に引き寄せ、一つの土俵の上に上げてしまうのです。そこで著者のカルロ・ロヴェッリ氏の素養が爆発します。自然科学と人文科学に通じた彼が、「哲学でもあるよね」という補足なんかではなく、真面目に哲学について語ってしまうのです。その前提として当然、著者の物理学者として量子力学の理論を理解しているということがあります。それが式を使わずに概要だけ説明して論をするめる本書に対しての信頼感、安心感につながっています。

一方で『時間は存在しない』にも言えるのですが、分かりやすくイメージで伝えるデメリットとして、本書を読んでも量子力学についての正確な理解は不可能だということです。分かったような気になるけど実は何も分かっていない自分の状態にもどかしさを感じならが読み進めることになります。いつか真正面から量子力学を学ばなければ、と思わされました。

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