古典文学最初の一冊はこれで決まりでしょう。古代ギリシアで紀元前8世紀頃に成立した『オデュッセイア』と並ぶホメロスの2大叙事詩の1つです。当時は詩人が暗記して詠いついでいました。それが時代を経て徐々に筆記され整理されたものが、今私たちが読むことができるイリアスのテキストです。紀元前13世紀頃にあったとされるトロイア戦争が舞台です。ギリシア軍のアキレウスやアガメムノン、トロイエ軍のヘクトルなどの英雄たちの戦いが描かれますが、その裏で人間に加勢したり、自ら参戦したりするギリシア神話の神々の行動もからんできて、壮大なストーリーが展開されます。
基本情報
作者:ホメロス(古代ギリシアの詩人)
成立時期:紀元前8世紀頃
翻訳者:松平千秋(古代ギリシア文学者)
発行日:1992/9/16
ページ数:上 454, 下 510
ジャンル:人文科学>文学>古代ギリシア文学>叙事詩
読みやすさ
難易度:独特の言い回しがありはじめは多少読みにくいが、慣れてくれば普通に読み進められます。個人的には、恥ずかしい話、訳文の中で読めない漢字が結構あって、スマホで検索しつつ読むことになりました・・。
事前知識:ギリシア神話に登場する神々のキャラをある程度おさえておくとより楽しめます。当時の常識として神話をあたりまえに知っている人向けに作られています。どんな性格で、どんなエピソードがあるか、みんな当然知ってるよね?というスタンスで語ってくるので、知識ゼロだと辛いかもしれません。下のような易しい解説本をかたわらに置いて読むと良いでしょう。
おすすめ予習本:
目次とポイント
第一歌 悪疫、アキレウスの怒り:戦争中にギリシア最強の戦士アキレウスが総帥アガメムノンと内輪揉めして船に引きこもるのもひどい話ですが、そこでトロイエを優勢にしてアキレウスを立てようとするゼウスもまあひどい・・。
第二歌 夢。アガメムノン、軍の士気を試す。ボイオテイアまたは「軍船の表」:長々とギリシア軍とトロイエ軍の将兵たちを紹介する章。そんなに一気に紹介されても覚えられない・・。
第三歌 休戦の誓い。城壁からの物見。パリスとメネラオスの一騎討:戦争の原因を作ったパリスですが、とにかく弱いです。でも女神に助けられます。やはりイケメンは徳ですね。
第四歌 誓約破棄。アガメムノンの閲兵:ゼウスとヘラの夫婦喧嘩。アテネとアレスも両陣営について喧嘩。そんな神々のもとで大戦闘を繰り広げる人間たち。
第五歌 ディオメデス奮戦す:アテネがディオメデスに力を与えてアレスとの喧嘩に勝つ。意外と人間でも神様をどうにかできてしまう。
第六歌 ヘクトルとアンドロマケの語らい:小休止。
第七歌 ヘクトルとアイアスの一騎討。死体収容:お主なかなかやるな、で決着つかず。
第八歌 尻切れ合戦:ヘクトルが本気を出して、トロイエ優勢。ギリシア大ピンチであえなく日没。
第九歌 使節行、和解の歎願:アガメムノンがアキレウスに贈り物して非を認める大人の対応。それでも機嫌をなおさないアキレウス、大人気ない・・。
第十歌 ドロンの巻:ディオメデスとオデュッセウスが偵察に出てちょっとした戦果を上げて帰ってくる。小休止。
第十一歌 アガメムノン奮戦す:アガメムノンが本気を出してトロイエ陣営をがんがん押し返す。しかし、引きこもり天才のアキレス贔屓のゼウスがヘクトルに味方し、結局ギリシアが押し戻される。
第十二歌 防壁をめぐる戦い:ヘクトル強すぎて、とうとうギリシアの防壁を破る。
第十三歌 船陣脇の戦い:今度はゼウスが嫌いなポセイドンが出てきてギリシアに味方し、ギリシアが持ちこたえる。またまた神様同士の喧嘩と人間の戦争のコラボ。
第十四歌 ゼウス騙し:ヘレが旦那を色仕掛けで眠らせ、その隙にポセイドン&ギリシア軍が持ち直す。倦怠期知らずの良い夫婦です。
第十五歌 船陣からの反撃:ゼウスが目を覚ましてお怒りに。あっという間にギリシア劣勢。
第十六歌 パトロクロスの巻:アキレウス軍にいる親友パトロクロスが引きこもりを見かねて参戦。大活躍で敵をなぎ倒すが、深入りしすぎてヘクトルにやられる。
第十七歌 メネラオス奮戦す:パトロクロスの遺体の奪い合い。なんとかギリシアが遺体ゲット。遺体はすごく大事なようです。
第十八歌 武具作りの巻:引きこもってたせいで親友が死んだので遂に部屋から出て戦う決意をするアキレウス。名匠の神ヘパイストスが装飾がすご過ぎる武具を作ってくれる。引きこもりでもやはり英雄。
第十九歌 アキレウス、怒りを収める:ギリシア勢が散々戦死した末にようやくアガメムノンと和解するアキレウス。でもヘレからお前死ぬよって予言される。絶対に折れない死亡フラグ・・。
第二十歌 神々の戦い:遂に神々も直接参戦してアベンジャーズみたいな決戦に。ヘクトルvsアキレウスは、決着つかず。
第二十一歌 河畔の戦い:河を死体で埋めたせいで河の神に襲われるアキレウス。
第二十二歌 ヘクトルの死:遂にヘクトルを討ち取るアキレウス。その後パトロクロスへの復讐のために遺体を馬車で引きずり回すアキレウス。英雄さん・・。
第二十三歌 パトロクロスの葬送競技:いろんな競技大会が始まる。騎馬レースはベンハーやスターウォーズEP1のレースシーンを思わせます。
第二十四歌 ヘクトルの遺体引き取り:ヘクトルの死体をいたぶるアキレウスのところにヘクトルの父であるプリアモス王が来て遺体を引き取っていく。トロイエ側の葬式で大団円。
感想
英雄アキレウスが主人公ということになるんでしょうけど、彼はずっと引きこもってギリシア勢がやられるのを見ているし、ヘクトルの死体にひどいことするわで、現代人の目から見るとあまり英雄という感じがしない描かれ方をしています。一方のヘクトルの方がよっぽど人間らしくて、ラストは死体を受け取りにいく父親のプリアモスの方に感情移入してしまいました。でも当時のホメロスにとってはアキレウスの方が英雄だったのでしょうから、その当時の人のマインドがどうなっていたのか知りたいところです。そのうち解説本を読んでみたいです。
興味深かったのが、神々の介入の仕方です。基本的に、その姿を現して直接人間に何かするというシーンはほとんど皆無です。人間の心に勇気を吹き込んだり、雷などの自然現象を引き起こしたり、言葉を伝えるときは誰か人間の姿に化けて話たりと、常に間接的です。神様が出てきて大暴れ、ではなく、現実的な人間世界の出来事の裏に、そういった神々の影響があるという描かれ方がとてもリアルで、当時の人たちの世界の見方を垣間見ることができて面白いです。
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