DK社の人文社会系の大図鑑シリーズを今まで何冊か読んできてなかなか良かったのですが、今回は「文学」がテーマの1冊です。小説などの文学作品は、読みたい本を思うままに買って読んでいくのが普通の楽しみ方かと思います。でも私は、どちらかというとまず文学のおおまかな歴史と代表的な作品をにわか知識として知っておきたいと思いました。そうすれば、この世に膨大に存在する作品の中で、まず手をつけるべき王道の1冊が分かり、物語の世界への足を踏み出す先が見えてくるのではないかと。結論としては、本書はその目的に100%合致した素晴らしい本でした。
文学の歴史が分かる
本書は歴史上で重要な作品と作家を、それぞれ数ページくらいの量で図鑑形式で紹介しています。この本の良いところは、作家を国別やジャンル別にくくるのではなく、時系列に並べているところです。全体をいくつかの時代に分けて、作品紹介の前にまずはその時代の潮流をざっと説明してくれます。
古代から中世の神話や英雄伝説。ルネサンスから18世紀にかけての日常生活の描写から小説の誕生。19世紀前半のロマン主義とゴシック。19世紀後半の写実主義とファンタジー。20世紀前半のモダニズムと戦争から、20世紀後半はポストモダンの時代へ。という具合に、すごくおおざっぱな流れが把握できるようになっています。
そしてこの図鑑シリーズの定番ですが、作品ごとにキーワード、前史、後史がまとめられているので、その作品の立ち位置がすぐに分かります。
まずはこれを読め、という本が分かる
うれしいのが、作品の紹介のされ方になんとなく重要度による重み付けがされていることです。まず単純に割かれているページ数が多いものが重要そうに見えます。さらに重要な作品では、贅沢に見開きでイラストとタイトルとキーワードだけをどーんと見せています。その見開きタイトルの作品を書き出してみました。
- 『イリアス』ホメロス、前8世紀、ギリシャ
- 『オイディプス王』ソフォクレス、前429年、ギリシャ
- 『ドン・キホーテ』セルバンテス、1605年、スペイン
- 『ファースト・フォリオ』シェイクスピア、1623年、イギリス
- 『嵐が丘』ブロンテ、1847年、イギリス
- 『白鯨』メルヴィル、1851年、アメリカ
- 『ボヴァリー夫人』フローベール、1856年、フランス
- 『罪と罰』ドストエフスキー、1866年、ロシア
- 『ユリシーズ』ジョイス、1922年、アイルランド
- 『グレート・ギャツビー』フィッツジェラルド、1925年、アメリカ
- 『1984』オーウェル、1949年、イギリス
- 『百年の孤独』ガルシア・マルケス、1967年、コロンビア
- 『真夜中の子供たち』ラシュディ、1981年、インド
時代、ジャンル、国が良い感じにばらけていて、まさに世界文学図鑑といった感じです。全部で14冊なので、まずはこれから読んでみよう、と思える数です。最初はこの中から面白そうなものを読んでいって、そこから前史&後史を見ながら幅を広げていけば、スムーズな読書計画が立てられそうです。
文学好きな人が見ると、なんでこれが入っててあれが無いんだ!という疑問が多々あるんでしょうけども、何も知らない初心者としては、こうして重要作品を示してくれるのはすごくありがたいです。
あくまで読書ガイド
じゃあ、この本であらすじを読んで読んだ気になったり語ったりできるかというと、それは無理です。あらすじ紹介は最低限で、作品の背景や特徴なんかをメインで解説しているので、話の流れはほんとにおおざっぱにしか分かりません。とにかくその本を読まないことには始まらないです。逆に言うと、早く読んでみたいという欲求をくすぐってくれる良いガイド本であると言えます。
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