『経済学大辞典』を読んで、最新の経済学についても知りたいな、と思って手に取った本です。が、まさかここまで自分の常識がひっくりかえされるとは思ってもみませんでした。本書はMMT(現代貨幣理論)をベースにして、主流派経済学の理論と、それをベースにしたバブル崩壊後の日本の経済政策が「間違っている」と断言しています。そしてその根拠が、これでもかというほど明確な理屈で示されているのです。
経済の疑問の全てに答えを出してくれた
日々ニュースを見ていて、経済や経済政策についての話題になるたびに、納得できない、腑に落ちない、よく理解できない、もやもやとした疑問が湧いてきます。例えば次のようなことです。
- 消費税は上げる必要があるのか?
- 財政赤字の拡大はまずいことなのか?
- グローバリズムは正しいのか?
消費増税が必要だとか、財政赤字をなんとかしなければいけないとか言っている政治家を見て、なんとなく嘘くさいなという思いがありました。富裕層と結託して、自分の利益にために国民を犠牲にするような政策をあえて進めているんじゃないかという陰謀論が自分の中で浮かびがちだったのですが、それを説明できる明確なロジックを持つことが今までできませんでした。
でもMMTの理論とこの解説本は本当にすごいです。そういった疑問にいとも簡単に、クリアに、多面的に答えを与えてくれました。結局、政府が進める政策がやはり間違っているという、拍子抜けするような結論が書かれています。そして、富裕層、投資家、経営者が利権誘導のためにそういった政策をとらせるよう政治家に圧力をかけているという陰謀論のようなものも、おそらく正しいだろうということも分かりました。
一方で、本書はそういうイメージ通りの結論を超えた驚くべき現実を教えてくれます。間違った政策が選ばれるのは、経済理論を知り尽くした専門家たちが、利益誘導のために分かった上であえてやっているからだけではないといのです。主流派の経済学者や、政治のトップにいる人たち、そんな「プロ」たちが、貨幣の仕組みについて「理解していない」という衝撃(!)の事実です。まるで地動説を否定する天動説支持者のごとく、主流派の経済学者が間違った理論を信じ、それをベースに政治家が政策を決定しているというのです。
財政健全化という勘違い
本書はまるで上質なサスペンスもののように、経済のなぞを解き明かしていくエンターテイメントとして楽しめる本です。だから、ここでその細かい内容を説明するのは避けておきます。でも要するにで言うと「財政赤字を減らさなければいけない」という大きな勘違いこそが諸悪の根源だということです。財政赤字というのは借金でもなんでもなくて、政府が貨幣供給量を増やして需要と供給をインフレの方向に調整するための仕組みにすぎないと言うのです。そして、日本のようなデフレに苦しむ国は、どんどん財政赤字を増やすべきなのです。
本書に書いてあるロジックで説明されると、素人でも納得できるほど明確な話なのですが、それを頭の良い経済学者たちが理解していないというのです。今の経済学のベースになっている一般均衡理論という「天動説」が常識になりすぎて、それに反するMMTを理解する以前に見向きもしません。日本の政治家や官僚も、バブル崩壊以前のインフレの時代に「財政健全化」という基本理念が染み付いてしまっており、デフレ政策に対する正しい理解ができていない。そんなことって信じられますか?信じたくないというか、それが事実だったら軽いホラーだなという気分です。
トランプと保護主義
最近はアメリカの大統領選の直前ということもあり、トランプのひどい言動が毎日ニュースで流されています。人種差別を煽って国民を分断させているし、選挙で勝つために投票妨害を工作したり、コロナで大量の死者を出しても反省の色がなかったりと、もうひどい話しか聞きません。でも、本書を読んでひとつだけトランプに対する見方が変わりました。それは彼の進める「保護主義」です。経済学の入門書を読むと、自由貿易が相互の国に対してメリットをもたらすと書いてあります。その印象があるので、トランプやイギリスのEU離脱のニュースを見て、世界が保護主義という悪い流れに向かってるんだ、というイメージを持っていました。
でも本書を読んで、それが必ずしも正しくないということを知りました。自由貿易、グローバリズムを正当化する理論は、やはり主流派経済学の理論をベースにしているので根本のところで間違いがある。むしろ、統計データを見るとグローバリズムは各国にメリットを与えていない、むしろ保護主義の国で貿易が活発になっているデータもあるということです。グローバリズムは格差を広げるだけではなく、経済成長にもマイナスかもしれない。これに関しては本書の説明だけで全てを理解できたわけではありませんが、世界に対する自分の見方をがらっと変えてくれる読書体験になりました。
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