【書評】徴税は支出の後に生じる『MMT現代貨幣理論入門』L・ランダル・レイ

経済

MMT(現代貨幣理論)は、貨幣、税金、財政赤字などについての一般的なイメージを180度変えてくれる画期的な理論です。でも、それは常識を覆すとんでもない理論なんかではありません。その説明はあまりに明快でシンプルで、一度聞いてしまえば「まあそうだよね」とすんなり納得でき、むしろ常識的と言って良い内容です。MMTの主張は主に以下の通りです。

  • 通貨発行権を持つ政府はどんなに財政赤字になってもデフォルトしない。政府支出の制約は「財源」ではなく「インフレ」である
  • 税金は、通貨に需要を与える、インフレを抑える、所得格差を抑える、といった目的のためにあるのであって、政府の財源ではない
  • 政府の赤字の増加は民間の資産の増加とバランスする

そうなると、長年デフレに苦しむ日本にあって、増税、緊縮財政、民営化などの政策は明らかに間違っていることになります。日本経済の停滞が、政治家や経済学者の理解不足が引き起こしているなんて、まさか信じられないことです。しかし、本書が主張するのはそういうことなのです。

基本情報

作者:L・ランダル・レイ(アメリカの経済学者)

発行日:2019/8/30

ページ数:536

ジャンル:NDC 337, 社会科学>経済>貨幣

読みやすさ

難易度:主な主張はシンプルなので理解できますが、経済学の専門知識がないと理解できない部分も多いです。素人の私が理解できたのは全体のおよそ7割程度だと思います

事前知識:経済学の基礎を学んでおかないと内容を完全に理解するのは難しいでしょう

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目次とポイント

【序 論】現代貨幣理論の基礎:政府は通過発行権を持つので、支出するために徴税や債券によって貨幣を集める必要がない

【第1章】マクロ会計の基礎:政府部門、民間部門、海外部門の3つの負債と資産の合計は0になる。つまり政府の赤字の増加は民間部門の資産の増加を意味する

【第2章】自国通貨の発行者による支出:通貨を裏づけているのは、金などのモノではなく、唯一の納税手段として国から認められていることである。

【第3章】国内の貨幣制度:政府の金融オペレーションを中央銀行が受け持っているが、政府と中央銀行をひとくくりで考えると、政府部門が裏付けなく通貨を発行していることになる

【第4章】自国通貨を発行する国における財政オペレーション:自国通貨建の国債は国の借金などではなく、金利を調整するための準備預金の代替物に過ぎない

【第5章】主権国家の租税政策:租税の目的は、通貨の需要を保つこと、インフレの抑制、富の分配、特定の産業を推進したり罰したりすること、など

【第6章】現代貨幣理論と為替相場制度の選択:自国通貨、不換紙幣、変動相場制、という組み合わせが最も政策の自由度が高い

【第7章】主権通貨の金融政策と財政政策:失業が多く国民所得が低い場合、政府は支出を増やすべきである

【第8章】「完全雇用と物価安定」のための政策:定めた最低賃金で政府が公的な仕事に就くことを国民全員に保証する、就業保証プログラムで完全雇用を実現する

【第9章】インフレと主権通貨:ハイパーインフレはワイマールドイツやジンバブエのごく特殊なケースであり、政府支出をする上で大きな心配ではない

【第10章】結論:主権通貨のための現代貨幣理論:リーマンショック、ユーロ危機はMMTで説明がつく

感想

MMTが正しいとするとすれば(少なくとも主要な主張については正しいとしか思えませんが)、日本経済は財政政策の転換によって復活できる可能性を持っていることになります。とても希望が持てる話です。一方で、そうなると多くの経済学者や政治家が貨幣についての基本的な理解すらできていないという残念な状況であることを意味します。それでも、MMTが正しくて、それを徐々に主要な経済学者も受け入れていって日本経済が上向くという未来が来て欲しいなと思います。仮にそんな素晴らしい未来にならないとしても、そこから一歩ひいてみて、このパラダイムシフトになりうる理論が今後どう展開していき、政治経済が変わっていくのか、それとも変わらないのか、それを外野から眺めているだけでも相当に楽しい状況ではあると思ってしまいます。

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