【書評】『無理ゲー社会』橘玲

社会

〈きらびやかな世界のなかで、「社会的・経済的に成功し、評判と性愛を獲得する」という困難なゲーム(無理ゲー)をたった一人で攻略しなければならない。これが「自分らしく生きる」リベラルな社会のルールだ〉

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感想

内容的にはマイケル・サンデルの『実力も運のうち』を読んでいたのでそれほど目新しいものはなかったのですが、読んでいて印象的だったのは、文章の中に著者の「感情」が一切入っていないことです。遺伝子ガチャ(運によって持って生まれた才能)や生まれの良し悪しによって負け組となった人にとっては挽回のしようがない社会であるという残酷な現実が語られています。普通なら、そういった社会への憤りだったり、負け組に対する悲しみだったり、はたまたこういう社会の構造になってるんだよ面白いでしょ?というような感情が文章から滲み出てくるものです。

しかし、本書は残酷な事実を淡々と説明するだけで、ゾッとするほど無感情に書かれています。意図的なのか、それが著者のスタイルなのかは分かりませんが、あまりの「優しさ」の無さに読んでいてすごく辛い気持ちになりました。リベラルが社会を分断するという問題に安易な解決策なんてないということはわかります。それにしても、もう少し希望を持たせてくれたり、最低でも何か慰めのようなものが欲しくなってしまいます。

本書もそうですが、最近は実力主義、自由競争、機会の平等、自己責任論、個性の重視、などといったリベラル的な主張に異を唱える本が増えてきていて、もしかしたら自分が今、時代の転換点にいるのかもしれないと感じます。それは言論の世界だけではなく、映画やアニメなどのテーマにも見え隠れしています。そういった作品たちが少しずつ世界を良い方向に変えていってくれるのではないか、という希望を持ちたくなります。

だからこそ、とことんクールな説明だけでなく、そこにちょっとした感情、判断、提案の要素が加えられていたら、と思わずにはいられません。

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