筋トレが注目されている昨今、本屋に行けば筋トレのやり方を解説するハウツー本が何冊も並んでいます。本書はそれらの筋トレの方法を書いた本とは違い、筋肉の構造、仕組み、特徴などを、最新の生理学の研究成果を踏まえて解説した「科学」の本です。筋肉がどんな構造をしているのか。力、スピード、仕事、仕事率などの物理的な性質はどうなっているのか。どのように成長したり、性能のバランスを変化させていくのか。前半ではそういった基本的な筋肉知識を解説し、後半は実践編となっていますが、実践編でも語られるのはトレーニング方法を考える上での予備知識といった感じで、実際のトレーニングメニューは一つも紹介されていません。その分筋肉について体系的な知識を得ることに全ての紙面が割かれているので、読み物としてとても面白いです。最新の研究で分かっていることだけでなく、何が分かっていないのかについてもしっかり書かれているので信頼できる内容になっています。
基本情報
作者:石井直方
発行日:2017/10/11
ページ数:272
ジャンル:NDC 491, 自然科学>医学>基礎医学
読みやすさ
難易度:簡単です
事前知識:不要です。高校物理くらいは知ってると読みやすいですが、必須ではありません。
おすすめ予習本:予習よりも、これを読んだ後に筋トレ本を読むのがおすすめです
目次とポイント
理論編
- スピード型の平行筋と力型の羽状筋に分類される
- 四肢を伸ばす筋肉は力型で、縮める筋肉はスピード型が多い
- 筋肉を伸ばす時は、使われる筋繊維が少ないが1本あたりの力は大きい
- 関節角度によって出せる力が変わる
- 仕事率が最大になるのは最大筋力の30%程度の時
- 一つの神経で動かす筋肉のまとまりを運動単位というが、負荷が大きくなるにつれて大きい運動単位を使うようになる
- 速筋と遅筋の割合は遺伝子で決まっているので、得意不得意がある
- 急ブレーキをかける運動は筋肥大にとってマイナスかもしれない
実践編
- 一つのトレーニングは、特定の筋肉の特定の性能を上げることしかできない。万能のトレーニングは存在しない
- 筋肉は伸縮させずに力を測定する場合を除き、性能を正確に測定することは難しい。最新の測定器が必要
- 体の左右同時に負荷をかけるバイラテラルのトレーニングが望ましい
- 高負荷 or 低負荷、高速 or 低速、など、作りたい筋肉の性質によって必要なトレーニングは変わる。逆に言うと、筋肉は使われ方に応じて変幻自在に性能を変えていくことができる
- 最大負荷だけではなく、発生させた仕事を増やしてトレーニングの「容量」を増やす必要がある
感想
一番驚いたのは、筋肉がスポーツなどでの使われ方の違いに適応させるように、その性質を大きく変えることができるということです。瞬発的な力を出すトレーニングをすれば最大筋力が上がり、大きな仕事(力×距離)をするトレーニングではパワーが上がり、定負荷で高回数のトレーニングをすれば持久力が上がるといった具合です。逆に何もトレーニングをしなければ、体の消費エネルギーを減らすために筋肉は減っていきます。進化の過程で人類を含む生物が置かれていた環境はとても厳しく、また変化の激しいものだったのでしょう。その中で自分の体を柔軟に適応させて生き抜くために、筋肉も環境に適応して性能のポテンシャルを様々なパラメータに振り分ける機能を獲得したと思うとすごいです。車に例えれば、スポーツカーがオフロードを走り続けている間にだんだんSUVに変化していくようなものです。その結果、現代人が筋肉を鍛えようとした時に、「万能の筋肉」を作ることができないということになります。競技種目や目指す体に合わせて、トレーニングの仕方も変えていく必要があります。これだけやっていればOKというトレーニング法が存在しないという事実は、難しくもあり、楽しい部分でもありますね。
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